空飛ぶパンツ VS 魔法都市の鳥、そしてまた誤解
異世界三日目。
牢屋の藁ベッドの上で目覚めた俺は、そっと自分の下半身を見つめた。
『おはよ、ご主人!今日も俺は絶好調だぜ!』
「お前の声で目覚める朝は地獄だよ!!」
パンツは相変わらず喋る。
そしてまだ脱げない。呪いの2日目だ。
鉄格子の向こうでは、エルミナがいつもの笑顔で手を振っていた。
「おはようございますっ! 今日、街で“空の市”があるんですよ!」
「空の市?」
「空に浮く鳥や魔法具がいっぱい売られるお祭りです!」
嫌な……いや、嫌すぎる予感しかしない。
衛兵に苦笑されながらも、なぜか今日も仮釈放。
エルミナに連れられ、俺は街の中心へ。
そこでは
鳥、鳥、鳥! 空を飛ぶ魔法鳥だらけ!
「ここが“空の市”です! きれいでしょう!」
「きれいだけど……なんか鳴いてる鳥多くない?」
「魔力を感知して寄ってくるんですよ! 特に……怪しい魔力に!」
エルミナが俺の腰を指さす。
「おまえのことだよねぇぇええ!!?」
『おい、ご主人。なんか視線感じるな』
パンツがもぞもぞ動いた瞬間――。
「キュルルルルル!!」
巨大な青い鳥が俺のパンツめがけて急降下してきた。
「ちょっ、待て待て待て!?」
『へへっ、俺って人気者だな!』
「お前のせいだぁぁぁ!!」
鳥はパンツをくわえたまま飛び上がり
俺の身体ごと宙に持ち上げた。
「アキトさん!? 連れ去られてる!!」
「落ちたら死ぬ!! パンツ、何とかしろ!!」
『任せろ、ご主人! “パンツ・エアロスラスター”発動!!』
「技名あるの!? え、ちょーー」
パンツから風が噴き出し、俺は鳥から引っ張られるようにして横に滑空。
結果、空中で鳥とパンツが綱引きしている構図になった。
「これ絶対傍から見たら地獄の絵面だろ!!」
『負けねぇぞ鳥野郎! ご主人は渡さねぇ!!』
「渡していいよォォォ!!」
街の人々が下から見ていた。
「あれが例の“全裸→パンツ男”か……」
「今日は飛んでる……?」
「パンツで鳥と戦ってる……もう意味がわからない……」
「違うんだよォォ!!」
子供が泣き出す。
老人たちは天を見上げ祈り始める。
そして
パンツの“スラスター”が暴発。
『ぐあああああ!! 魔力逆流ぅぅぅ!!』
「やめろおおおお!!」
俺は空中で縦回転しながら落下。
「アキトさーーん!!」
エルミナの叫び声が遠ざかる。
落ちた先が、よりによって噴水だった。
派手な水しぶきをあげて沈み込む俺。
そして数秒後、パンツがひとりでに浮かび上がった。
『ご主人、なんとか生きてるか……?』
水面から顔を出す俺。
「お前のせいで死ぬかと思ったわ!!!」
「アキトさん!」
駆け寄ってきたエルミナが手を差し伸べる。
「大丈夫ですか!? また新しい伝説が生まれましたね!」
「そんな伝説いらない!!」
そして、到着する衛兵たち。
「また君か……」
「今度は空を飛んで騒ぎを起こしたと聞いてね……」
「ちっ、違うっ! これは鳥が勝手に……!」
しかし言い訳は届かず。
俺は、また牢屋にいた。
『今日も戻ってこれたな、ご主人』
「戻りたくて戻ってるんじゃねぇ!!」
鉄格子の前で、エルミナが元気に笑う。
「明日は呪いが解ける日ですよ! 楽しみですね!」
「頼むから静かに過ごさせてくれぇぇ!!」
こうして、俺の三日目も平和(?)に終わった。




