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全裸で異世界落ちした俺の、今日も誤解される街暮らし 〜魔法少女見習いと亡霊パンツと牢屋生活〜  作者: 月影ポンコツ


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エルミナの“絶対静かにする大作戦”が大騒動を呼ぶ

 翌朝の牢屋。

 隊長の「今日は静かにしてくれ」の言葉がよほど効いたのか


「……アキトさん。今日から私、“絶対静かにする大作戦”を開始します!」


 エルミナは胸を張って宣言した。


「お、おう。なんか逆に嫌な予感しかしないんだが」


「静かにしてれば、隊長に褒められる!

 そうしたら出世!

 そうしたら“牢屋勤務”から卒業できる!!」


「それは……まあ、頑張れ?」


『ご主人、こういう時に応援するのが男ってもんだぜ……(※パンツの残響)』


「いやパンツの残響は黙れ」


 隣の牢のラーデンが笑いながら頷いた。


「よい心がけじゃな。静寂は精神修行の基本よ」


「さすがラーデンさん!協力お願いします!」


「任せるのじゃ!」


 この時点で、すでに嫌な未来しか見えなかった。


 まず最初の問題。


「静かにしないと……くしゃみもダメよね……?

 よし、“くしゃみ封印魔法”!」


「待てぇぇぇ!!」


 エルミナの手元で魔法陣が光る。


「静かにするためだもんっ!絶対成功させる!」


「絶対が一番信用できねえんだよ!!」


 案の定。


 ボンッ!!


 くしゃみの衝撃が魔力に変換され、

 牢屋が一瞬ふわりと浮き、

 床が軽くへこみ、

 ラーデンの髭が燃えた。


「むおおお!? ワシの髭があああ!!」


「ご、ごめんなさい!!静かにする練習で……!」


「静かにして髭燃やすなよ!!」


「……わかった。

 私、もう魔法使わない!

 身体で静かになる!」


「身体で……?」


 エルミナは拳を握り、決意を込めて言った。


「今日一日、しゃべらず、動かず、呼吸も静かにする作戦です!」


「いや呼吸は普通にしろ!!」


 だがエルミナは聞かず、

 その場で正座して、ぴしっと姿勢を正した。


「…………」


 完全に無言のまま、じっとアキトを見つめる。


「……いや圧がすげえんだけど」


「…………」


「近い近い近い、なんでそんな見つめてんの!?」


 返事しない。


 静かにするため、あえて返事しないらしい。


「エルミナ、目。目がうるさい。なんで涙目?」


「…………(しゃべらない)」


『ご主人、なんか拷問みたいになってるぜ』


「パンツの残響は黙ってろ!!」


 しかしこの無言作戦、わずか五分で破綻した。


 なぜなら


“ぎゅるるるるるるるる……”


 エルミナのお腹の音が、牢屋に響き渡った。


「うわめっちゃ鳴ってる!!」


「~~~~~~っ!!(恥ずかしさで震える)」


 エルミナは羞恥で魔力が暴発し、

 壁の一部が軽く凹んだ。


「静かにしようとして静かじゃない方向に事故ってる!!」


 そこでラーデンが、髭を半分焦がしたまま言った。


「エルミナよ。静かになるには、吸音結界が良いぞ。

 ワシの若い頃も、修行のために使っておった」


「すごい!使います!」


「いや待て、じいさんの“若い頃”の魔法って絶対古代式だろ!?」


「うむ。扱い方を間違えると

 外の音が全部吸い込まれて“無音地帯”になる」


「こわいわ!!」


 しかしエルミナはもうスイッチが入っていた。


「静かにするためなら……やる!!」


「待て待て待てッ!」


 魔法陣展開。


「吸音結界・静寂サイレンスフォーム!!」


 ピキィィィィンッ!!


 音が、消えた。


 牢屋の中の音だけでなく、

 廊下の足音も、外のざわめきも、

 ラーデンの髭が焦げる音すらすべて消えた。


「…………(口パク)」


「…………(口パク)」


「…………(口パク)」


 三人とも口を動かしているが何も聞こえない。


『ご主人、これ、マズいぞ……』


パンツの残響だけ聞こえる。


「お前だけ聞こえるのかよ!!??」


 アキトの叫び声(聞こえないけど)が空しく響く。


 無音地帯の中、

 エルミナは「成功した!」というドヤ顔をしていた。


 だが結界は予想以上に強かった。


 牢屋の外では衛兵たちが慌てていた。


「おい!ここの音が全部消えたぞ!!」


「結界だ!誰が張った!?」


「魔法暴発じゃないのか!?」


「またあの見習いか!?」


「絶対そうだ!!」


 結界が破壊されると同時に、

 音が一気に戻り


「エルミナァァァァァァァ!!!!」


 隊長が猛ダッシュでやって来た。


「隊長!?」


「お前ぇぇぇぇ!静かにって言ったよな!?

 なんで“周囲の音全部消す”方向に行ったんだ!?」


「えっ……静かにしたから……」


「静かすぎるわ!!」


 ラーデンもこっそり手を挙げる。


「隊長、ワシも少しだけ助言を……」


「お前もかああああ!!!」


「ごめんなさい……

 でも、静かにするの難しくて……」


「言葉の意味をまず覚えろ!!」


 アキトがため息をつく。


「エルミナ……お前は静かじゃなくて“平常運転”の方が安全だろ」


「えっ、私っていつも安全だったの!?」


「ぜんぜん安全じゃない(断言)」


「えぇぇぇぇぇぇ!!」


 隊長は壁にもたれ、死んだ目で呟いた。


「……今日も異動願いを書こう……」


 その横で、パンツの残響が小さく囁く。


『静かにする才能、ねぇなご主人の仲間……』


「お前も黙れぇぇぇ!!」


 牢屋の日常は、今日も静かじゃない。



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