エルミナ、まさかの“牢屋勤務”命令
昼下がりの留置場。
アキトはふと、同じ牢屋で縄跳びみたいに魔力を飛ばして遊んでいるエルミナに声をかけた。
「なあエルミナ。お前、いつから牢屋で俺を見張る係になったんだ?」
エルミナはぴたりと動きを止め、魔力の糸をぱちんと弾いた。
「……あれ?言ってなかったっけ?」
「言ってない。」
「えへへ、じゃあ説明するね!」
と、エルミナは床にちょこんと座り、膝を抱えて語り始めた。
一週間前──衛兵詰所にて
「エルミナ見習い、ちょっと来い!」
厳つい隊長に呼ばれ、エルミナは背筋を伸ばした。
「は、はい!魔法少女(自称)・衛兵見習い・エルミナです!」
「……魔法少女は自称だろ。まあいい。お前に特別任務だ」
「特別任務っ!? ついに、悪の大魔王を倒す仕事が!?」
「違う。お前、牢屋に入れ。今日から当分、中の人間の見張りをしろ。」
「…………え?」
その場の衛兵たちがざわついた。
「隊長、それはつまり……減給ですか?」
「いや、違うんだ。むしろ適任だと思ってな……」
隊長は額を押さえ、ため息混じりに説明した。
「お前、アキトって新入りを捕まえただろ」
「うん!あの人、めっちゃ怪しかったから!」
「その“めっちゃ怪しい”という理由で、余計な魔力封印まで施したせいで、
アイツ動けなくなって三回転倒したんだぞ」
「えっ、あれ私のせいだったんだ……」
「なので責任を取って、お前がアキトを見張れ。しかも内部でな。牢の外からだと魔法が暴発するだろ?」
「あっ……(思い当たりすぎて黙る)」
「お前は“外から監視しようとすると壁を壊す可能性”が高い。
だから逆に“中に入れておく方が安全”なんだよ。」
「そんな理由で!?」
「ついでに、アキトの言動を記録しておけ。魔力適性がよくわからん男だしな。
魔法少女見習い(自称)としては、それくらいできるだろ?」
「自称の扱いが雑ーーー!」
その結果
「……というわけで、私、任務でここにいるの!」
エルミナは胸を張って言った。
「いや任務っていうか、完全に巻き添え処分じゃねぇか……」
「でも!ちゃんとした仕事だよ?
“アキトさんが不審な行動をしないようすぐに取り押さえる役”なんだから!」
「取り押さえられた覚え、もう二回ほどあるんだけど」
「うん、今日もがんばるねっ!」
「いやがんばらなくていい!」
そこへ隣の牢屋からラーデンじいさんが声をあげた。
「む……エルミナ嬢よ、その説明は半分正しいが半分間違っておるぞ」
「えっ?半分?」
「お主を牢屋に入れた本当の理由は
“外に置いとくと仕事サボってお菓子食うから”だと、隊長がワシに愚痴っておったぞ。」
「じいちゃんそれ言っちゃダメ!!」
「わっはっは、若い頃のワシもそうだった!」
エルミナは耳まで真っ赤になりながら、アキトの袖を引っ張った。
「ア、アキトさん、いまのは嘘だからね!? ね!?」
「まあ……お前っぽいなって思っただけだ。」
「思ったの!?」
牢屋の中、三人の日常は今日も騒がしい。




