ラーデン、写真を燃やすはずが、“燃えない魔法火”を発生させる
昼の牢屋。
今日もゆるゆると平和……だった“はず”だった。
「アキトよ、先日の“写っておらん記念写真”をだな……ちょっと燃やしたくての」
「なんで燃やすんだよ!? 捨てればいいだろ!?」
「いや、こういうのは証拠隠滅の儀式として燃やすのが正しいのじゃよ」
「証拠隠滅って言っちゃった!!?」
ラーデンは、鉄格子の影でこそこそと火種を作成していた。
エルミナは黒パンをかじりながら、むっすりしている。
「……またラーデンさん、変なことしようとしてますね」
「いや、エルミナさん? 今回はあなた関係ないから黙っててくれていい」
「アキトさんの写真が写ってなかった理由、まだ調べてるんですから!」
「いや、それ以上深掘りしなくていいから!!」
俺の必死の制止を無視し、ラーデンが手を上げる。
「ふぉっふぉ。では、燃やすぞ……!
“簡易魔法火”!!」
ぱちっ。
ラーデンの手のひらに小さな青い火が灯った。
「おお、いつものやつか」
「私でも使えるやつですね!」
「これなら安心ですねラーデンさん。何も問題」
バチバチバチバチバチッ!!
「……ん?」
「なんか音してません?」
「聞いたことねぇ魔力音してるけど!?」
ラーデンが顔をしかめる。
「む……? おかしいの……燃えん……」
写真を火に近づけても、たしかに燃えない。
むしろ
逆に火の方が写真を避けるように“逃げて”いる。
「なんだこれ!? 火のくせにビビってる!?」
「ラーデンさんの火、怖がりなんですか?」
「馬鹿者。魔法火が逃げるなどありえるわけ」
火:「ピョイッ(※明らかに避けている)」
「避けたあぁぁぁぁぁ!!?」
さらに火はラーデンの手から離れ
牢屋全体をうろうろと漂い始めた。
「危ない危ない危ない!! 火だぞ火!!」
「でも燃えないなら安全ですよね?」
「問題はそこじゃねぇ!! 漂ってる事実が問題だろ!?」
ラーデンは必死に追いかける。
「待て! わしの火じゃぞ!!」
「いや待てって何!? 火に命令すんなよ!!」
火はふよふよと逃げる。
まるで意思を持ったように。
そして牢屋の隅
誰もいない薄暗い場所でふわっと止まると、
まるで“何か”に怯えるかのように小さく震えた。
「……ねえ、アキトさん」
「……なんだよ」
「火って……震えます?」
「震えねぇよ。俺の知らない世界では震えるのか……?」
ラーデンは首をかしげた。
「妙じゃな……小魔法火の反応ではない。
まるで……“強い残留魔力”を避けておるようじゃ……」
「残留魔力? この牢屋にそんなもんあるか?」
その瞬間。
牢屋の隅で、
布がふわっ……と一瞬だけ揺れた。
風はない。
誰も触っていない。
「あれ……? そこ、誰かいます……?」
「おい待てやめろエルミナ!! 変なこと言うな!!」
ラーデンが呟く。
「……パンツの亡霊、まだ残っとるんじゃないかのう……」
「やめろおおおおお!!?」
青い火は震えながら、
ゆっくりとエルミナの背後へ移動し
なぜか、そこで安心したようにおとなしくなった。
「……エルミナの魔力に反応してる?」
「お主……本当に尋常ならざる魔力を秘めておるな……!」
「えっ、そうなんですか? 私、ずっと“簡単魔法”しか使ってないのに……」
「簡単じゃねぇんだよ!! 何一つ!!」
ラーデンが火を回収しながら、ぼそっと言った。
「しかし……火が逃げるような残留魔力……
やはりこの牢屋、何かおるのう」
「おるなじゃねぇよ!! やめてくれ!!」
こうして
燃えない火(意思を持った魔法現象)と、
パンツの亡霊の残滓がまだ牢屋に存在する可能性
という、ろくでもない伏線だけが残った。
今日も牢屋は、平和(かどうか怪しい)である。




