パンツの呪いと見習い魔法少女エルミナ
異世界二日目の朝。
俺は牢屋の藁ベッド(痛い)から上体を起こし、深いため息をついた。
「……今日こそは平穏に過ごしたい」
昨日は全裸転移からの変態疑惑で牢屋行き。
証拠不十分でなんとか“仮釈放”されたものの、街ではいまだに噂されている。
「おはようございますっ! 昨日の“全裸さん”!」
「エルミナあああああ!! 呼び方を変えてくれ!!」
牢屋の前で元気よく手を振っているのは、昨日助けてくれた少女、エルミナだ。
白いローブに小さな杖を背負った、見習い魔法少女らしい。
「だって覚えやすいじゃないですか」
「覚えやすさの問題じゃねぇ!」
衛兵の二人がこちらを見て小声でひそひそ。
「ほら、あれが噂の……」「また全裸になるのかな……」
「ならねぇよ!!」
エルミナが俺の袖を引っ張る。
「今日は街をご案内しますね! 面白い場所があるんですよ!」
「面白い場所って、どこだ?」
「“呪われたパンツ屋さん”です!」
「帰る!!」
「なんでですか!? すっごい有名なんですよ!」
嫌な予感しかしないが、引っ張られるままついていく。
パンツ屋のドアを開けた瞬間、俺の心臓が冷えた。
壁一面パンツ。
天井にもパンツ。
意味不明に宙をくるくる回っているパンツまである。
「いらっしゃい! 本日はなんと……男性じゃ!!」
老人店主が、なぜか感動しながら俺に飛びついてくる。
「やめて!? 距離感どうした!!」
「店主さん、この人に“呪われしパンツ”の資格があります!」
「エルミナ!! 勝手に変な資格与えるな!!」
「だって昨日全裸でしたし!」
「そこを理由にするなああああ!」
店主の老人は震える手でひとつのパンツを掲げた。
淡い光を放つトランクス。
「選ばれし者……これを身につけるのじゃ」
「絶対イヤなんだけど!? 呪われてるんだよなそれ!?」
「だいじょうぶです。ちょっとだけです!」
「“ちょっと呪い”という概念あるのか!!」
結局、説明も聞かずに履かされた。
その瞬間、パンツが跳ねた。
「……え、動いた?」
『よぉ、ご主人! 今日からお前の下半身は俺が守るぜ!』
「しゃべったああああああ!!?」
俺は腰を抜かし、エルミナは目をキラキラさせて拍手していた。
「すごいです! パンツ精霊さんですよ!」
『三日間は脱げねぇからよろしくな!』
「呪い重すぎるだろぉぉぉ!!」
パンツの声は外にもダダ漏れで、街中がざわついた。
「聞いた? 全裸男、今度はパンツと会話してるって」
「未知なる進化……?」
「怖い……子どもを家の中へ!」
「誤解が増えただけぇぇ!!」
衛兵がまた駆け寄り、俺は取り囲まれた。
「また何かやらかしましたね?」
「やらかしてねぇよ!! 俺の意思じゃない!!」
しかし結果は
牢屋に戻ってきた。
『へへっ、ご主人。また戻ってこれてよかったな』
「よくねぇわァァァァァ!!」
鉄格子の向こうで、エルミナは無邪気に手を振っていた。
「三日後には呪いが解けますから! また遊びましょうね!」
「エルミナぁぁぁぁ!! お前が原因だぁぁ!!」
こうして俺の異世界二日目も、誤解とパンツで幕を閉じた。




