エルミナが「脱獄記念写真」を撮ろうとして事件になる
脱獄計画の作戦会議が、
なぜか “スケッチブック” を開く音から始まった。
パタン、と裏表紙をめくりながら、
エルミナが真剣な顔で言う。
「……脱獄記念写真を撮ろうと思うの!」
アステルもラーデンも、反射的に固まった。
「……エルミナ君?」
ラーデンが眉毛をひくつかせる。
「記念……? 何の? どこに? そして誰が欲しがるのじゃ?」
「それはもちろん、私が未来に見返すために!」
エルミナは胸を張る。
「“初めての脱獄”って、人生で一度しかないからね!」
「いや、二度目があったら困るんだけど!?」
アステルが即ツッコミ。
エルミナは、スケッチブックのページをパラパラめくり、
中から手描きのポップを取り出した。
その文字は衝撃的だった。
『脱獄記念 2025 ☆チーム牢獄』
「お前、なんでロゴまで作ってんの!?」
「しかも年号入れるな、証拠になる!!」
「大丈夫だよ、盗られなきゃ犯罪にならないから!」
「その理屈を外で言うな!?」
エルミナはやる気満々で、牢屋の中を見回した。
「うーん……ここじゃ背景に味がないなぁ」
「いや、牢屋に“映えスポット”求める人初めて見たぞ」
アステルが呆れる。
「あるとすれば、この“不潔な藁”じゃな」
ラーデンが髭を撫でる。
「ワシはこういう “生活感のある背景” 好きじゃが」
「じーじ、それ絶対ちがう意味で炎上するやつだからね?」
ピタ、とエルミナの視線が鉄格子に止まった。
「ここだ!」
「“脱獄する瞬間の私たち3人” を撮るの!」
「リアル犯行写真!!?」
「大丈夫、脱獄した瞬間に燃やせば証拠にならないよ!」
「写真撮る意味どこいった!?」
エルミナは自作の「魔力インスタントカメラ」を取り出した。
見た目は木箱にレンズつけただけだが、魔力で自動撮影する優れもの
ただしまだ試作品。
「よーし、タイマーセット! 10秒後に撮りまーす!」
「ちょっと待て、門番来たらどうすんだ!」
「タイミングばっちりだよ、さっき見回り終わったもん!」
その瞬間
ガチャッ。
ドアが開いた。
「おい、今の声……え、何その箱?」
衛兵がカメラを見て眉をひそめた瞬間。
ピカァァアッ!!
満充電の魔力が暴発、
牢屋全体を白い閃光が包み込んだ。
「ぎゃああああああ!?」
「まぶすぎるじゃろおおお!?」
光が消えたとき、全員の動きは固まっていた。
衛兵だけ、なぜか涙目で叫んだ。
「お、俺の網膜に……!
“お前らがポーズ取ってる姿” が焼き付いたんだけど!!」
エルミナは嬉しそうに手を叩いた。
「成功だね!」
「成功じゃねえよ!!!!」
カメラから出てきた写真は、
なぜか
三人がピースしながら、
完璧に眩しい光に包まれて“何も写っていない”白紙だった。
「……ある意味、犯罪の痕跡ゼロになったな」
アステルが、遠い目でつぶやいた。
「これが……芸術か……」
ラーデンが感動した顔で頷く。
「なにそれ、バグ?」
エルミナだけが納得していなかった。




