牢屋で三人、ゆるゆる日常(危険なのは大賢者だけ)
朝。
アキトが目を覚ますと、隣の牢から妙に湿ったため息が聞こえた。
「……はぁ〜……若いって、ええのぅ……」
声が渋く枯れている。
昨日捕まってきた、大賢者ラーデン。
「理由は、魔法研究所に忍び込んで、
“女子更衣室の魔力流れ”を観測していたらしい」
「エルミナ助けて!隣の牢屋に変態いるの」
エルミナは持ち込んだ黒パンをもぐもぐしながら話しは無視して元気に挨拶した。
「おはよー、アキト。ラーデンさん、おはよー」
「おはよう、わしの天使よ……そのパンを一口くれんか……? できれば口移しで……」
「……普通に渡しますね!」
エルミナがちぎって投げた黒パンが、鉄格子の隙間からラーデンの顔面に直撃する。
「ほげっ!? ……ああ……これが若さの味……」
「絶対違いますよね!? 今“若さの味”って言いましたよね!?」
ラーデンはパンを拾って鼻歌を歌いながら言う。
「いやぁ、牢はええの。静かじゃし、若い者の清らかな気配がよくわかる……」
「その理由で牢屋を評価するのやめてください!」
エルミナが素朴な疑問を投げた。
「ラーデンさんって、大賢者なんですよね?」
「そうじゃよ。大賢者であり、若者研究家でもある」
「二個目の称号いらない!!」
アキトは額を押さえた。
エロじじいが隣にいると、精神消費がやばい。
そんな時。
「ところで、お主ら……パンツの亡霊を見たと聞いたが?」
「やめてください!!」
「第三形態までいったんじゃろ?」
「全部エルミナが言ってるだけです!!」
エルミナはなぜか得意気である。
「ちゃんと“布の霊圧レベル”測っといたよ!」
「測らなくていい!!」
ラーデンは長い白髭を撫でながら、
「ふぉっふぉ……青春じゃのぅ……若い者のパンツ騒動……実に尊い……」
「変な方向に尊ぶな!!」
その時、外の廊下を走る足音。
「大変だ! 北側の街壁に、巨大な石の手が生えたぞ!!」
「……」
「……」
「……」
エルミナがパンを落とした。
「それ……昨日の……修復魔法の……副反応かも……」
「おまえの仕業かーー!!」
ラーデンは嬉しそうに目を細めた。
「ふぉっふぉ……事件も若さも全部、お主らが持っていくのぅ……元気でよろしい」
「何を楽しんでるんですかラーデンさん!!」
「よきかな、よきかな……楽しい牢屋生活の始まりじゃ……」
今日も牢屋は平和(?)である。




