隊長が“展示責任者”にされる
屋敷の一室。
本来なら応接間として使われるはずだった部屋は、
今や
「パンツ展示室(仮)」
という木札が、勝手にかかっていた。
「…………誰が、責任者だ」
低く、胃に悪い声で隊長が呟く。
アキトは壁際で正座していた。
エルミナはなぜか胸を張っている。
ラーデンは椅子に座り、紅茶を飲んでいる。
そして中央の台座には
ガラスケースに入った、例のパンツ(※残響)。
◆展示説明文の惨状
隊長が手元の紙を読む。
【展示品No.1】
《伝説のご主人を導いた叡智の布》
・自我あり
・意見多め
・現在は落ち着いている(※当社比)
「………………」
隊長はゆっくり顔を上げた。
「これは……誰が書いた」
静寂。
すると、ガラスケースの中から
ひそひそ声が聞こえる。
『私です、ご主人のパンツです』
「喋るな」
『責任者の方ですよね?』
「誰が責任者だ」
責任、押し付けられる
エルミナが、ぱっと手を挙げた。
「は、はい!
この展示、最初は“仮”だったんですけど!」
「けど?」
「観光客の方が
『説明が分かりやすいですね!』
って言って帰られました!」
隊長、頭を抱える。
「なぜ“説明”がある前提なんだ……」
ラーデンがにこやかに補足する。
「儂は反対したぞ?
“これは後世に残る”と言っただけじゃ」
「それが一番いらん!」
決定的な一言
そこへ、役所の使いが入ってくる。
「失礼します。
展示物管理責任者の署名を」
隊長が顔を上げる。
「違う。
私は“視察”に来ただけだ」
使いは首をかしげる。
「ですが、書類にはこう……」
紙を読み上げる。
展示監修:パンツ(自称)
展示協力:アキト(無自覚)
展示責任者:隊長
「……誰が書いた」
全員、ゆっくりパンツを見る。
『責任の所在は明確に、が基本ですよね』
隊長、無言で倒れた。
その後
アキトがそっと言う。
「……隊長、大丈夫ですか?」
床から、かすれた声。
「……私は……
いつから……
布の展示責任者になった……」
エルミナが記録帳を開く。
「書きますね!
《隊長、正式に展示責任者になる》」
「書くな」
ラーデンは紅茶を一口。
「これもまた、歴史じゃな」
「今日の屋敷は
隊長の知らないところで、責任が増えていた。」




