パンツが勝手に“展示説明文”を書き始める
屋敷に、観光客が来た。
といっても本格的な団体ではない。
「試験的に、少しだけ様子を見ましょう」という名目の、
好奇心だけで編成された数名の見学者だ。
「……なんで俺の家が“試験的観光地”になってるの?」
アキトは玄関先で立ち尽くしていた。
横ではエルミナが胸を張り、ラーデンは既に縁側でお茶を飲んでいる。
「アキトさん!安心してください!」
「何が!?」
「説明文は用意してありますから!」
嫌な予感しかしない。
問題の展示エリア
観光客は、屋敷の一角に案内された。
そこには
・アキトが普段座っている椅子
・魔力測定で壊れた机(修理途中)
・そして、何も置かれていない台座
「え、ここは?」
観光客の一人が首を傾げる。
その瞬間。
スッ……
空中に、文字が浮かび上がった。
《展示説明文:第一級遺物》
『呪われし英霊の衣・パンツ(仮称)』
かつて全裸で異界に降り立った“ご主人”を導き、
幾多の誤解と騒動を生み、
最後は自己犠牲によって消滅した伝説の存在。
※現在は“残響”として健在。
「……え?」
アキトの背中が、ゆっくり凍る。
「ちょっと待って!?
俺、その説明聞いてない!!」
パンツ、饒舌になる
さらに文字が追加される。
※展示物は不可視です。
しかし“気配”を感じた方は、
ご主人に適性がある可能性があります。
観光客たちがざわついた。
「え、今ちょっと寒気が……」
「私も……」
「選ばれた?」
「選ばれてない!!!」
アキトが叫ぶ。
エルミナは目を輝かせている。
「すごいですアキトさん!説明が分かりやすいです!」
「俺が書いたんじゃない!!」
ラーデンは完全に楽しんでいた。
「ほっほ。史料としても価値が出てきたのう」
隊長、間に合わない
そのとき、外から聞き慣れた悲鳴がした。
「誰だ!!
誰が“展示説明文”を公式フォーマットで許可した!!」
隊長だった。
書類を抱え、すでに顔色が悪い。
だが、もう遅い。
パンツの文字は、最後の一文を刻んだ。
※ご主人は現在、牢屋に通勤中。
観光客たちが一斉に振り返る。
「……通勤?」
「牢屋に?」
「貴族なのに?」
隊長は、その場でしゃがみ込んだ。
アキトは天を仰いだ。
「……家に帰っただけなのに、
なんで展示物が増えてるんだよ……」
風が吹き、
誰にも見えないはずの“何か”が、
満足そうに揺れた気がした。
「今日も牢屋は遠いはずなのに、
俺の生活は展示ケースから出られない。」




