牢屋通勤貴族・ご近所様子見
アキトは、自分の屋敷の玄関前で立ち尽くしていた。
理由は簡単だ。
知らない人が増えている。
「……なんで人だかりできてるの?」
屋敷の門の外。
ご近所と思しき住民たちが、距離を保ちながらこちらを見ている。
ひそひそ、ひそひそ。
「牢屋から通勤してるって聞いたけど……」
「貴族らしいぞ」
「でもあの人、前に全裸で走ってなかった?」
アキトは頭を抱えた。
「最後の情報、いつのだよ……」
そこへ、何も気にしていない顔でエルミナが出てくる。
「アキトさん!おはようございます!」
「エルミナ、今この状況どう思う?」
エルミナは外を見て、ぱっと表情を明るくした。
「あ!ご近所さんですね!」
「なんで嬉しそうなの!?」
さらに後ろから、ラーデンがのんびり歩いてくる。
「ふむ。観察対象が増えたな」
「増やさなくていいから!」
門の外から、勇気を出したらしい中年の女性が声をかけてくる。
「あ、あの……失礼ですけど……」
「はい……?」(嫌な予感)
「あなた……いつのまに貴族に?」
アキトの思考が止まった。
「……え?」
「え?」
エルミナが横から即答する。
「はい!最近です!」
「答えちゃった!?」
ラーデンも頷く。
「わしも聞き逃したが、気付いたら貴族じゃったな」
「一番信用ならない証言!」
ご近所たちはざわつく。
「牢屋に出勤してるって……」
「貴族なのに?」
「じゃああの噂、本当なのね……」
アキトは慌てて手を振る。
「ち、違います!貴族っていうか、その……」
(なんなんだ?)
説明しようとした瞬間、屋敷の中から
「……ご主人、朝は静かにしてほしいですねぇ」
パンツの声が、開いた窓から響いた。
沈黙。
完全な沈黙。
ご近所の一人が、小さく呟いた。
「……屋敷、呪われてる……」
「違う!誤解です!!」
「誤解の情報量が多すぎる!」
エルミナは記録帳を開き、ペンを走らせる。
「ご近所初接触、成功……っと」
「どこが成功なの!?」
ラーデンは満足そうに頷いた。
「これで“牢屋通勤貴族”は定着じゃな」
「定着させないで!」
門の外では、すでに次の噂が生まれていた。
「貴族なのに牢屋勤務」
「賢者と少女と同居」
「パンツと会話可能」
アキトは空を仰いだ。
「……俺、いつのまに人生こんなジャンル増えたんだろ」
その日の午後。
門に、さりげなく貼り紙が増えていた。
『見学は午前のみ。午後は通勤準備中』
「誰が許可した!!!」
エルミナとラーデンは、同時に目を逸らした。
今日も牢屋は……通勤先なのに、身分だけが貴族になっていた。




