管理計画を領主に報告したら、街に屋敷をもらえた
牢屋の一角。
仮の「魔力管理計画 」が、なぜか概ね成功という最悪の結果を迎えた翌朝。
アキトは壁にもたれ、ぼんやりしていた。
魔力は落ち着いている。
副作用のネガティブ思考も、今日は比較的軽い。
「……つまり、使いすぎなければ平気で、
使わなさすぎると体調が変になる、ってことだよね」
「はい、アキトさん!」
エルミナは記録帳を掲げる。
「管理計画としては……成功例に分類されます!」
「成功って言うな!」
アキトは即ツッコむ。
そこへ、牢屋の扉が開いた。
ガチャリ。
現れたのは隊長だった。
顔色はいつも通り最悪だが、今日は紙束を抱えている。
「……報告は、私がまとめた」
「えっ」
「やめてください隊長、それ絶対ロクな方向に」
「もう遅い」
隊長は淡々と告げる。
領主への報告(隊長視点・要約)
・アキトの魔力は暴発ではなく「過剰出力型」
・一定量の使用で精神・身体が安定
・管理下に置けば、街への被害は抑えられる
・むしろ放置の方が危険
「……以上を、極めて真面目に報告した」
「隊長!!なんで真面目に書いたんですか!!」
「仕事だからだ」
その日の午後。
三人は、街の一角に立っていた。
目の前には
妙に立派な屋敷。
庭付き。
塀あり。
警備用と思われる結界まで張られている。
エルミナが目を輝かせる。
「アキトさん!見てください!牢屋じゃありません!」
「いや、喜んでる場合じゃないよね!?」
隊長が重々しく説明する。
「領主様の判断だ。
『管理計画を継続するには、専用環境が必要』とのことだ」
「えっ……」
「つまり……?」
「お前のための、管理用屋敷だ」
沈黙。
ラーデンが、にやりと笑う。
「ほう。牢屋から昇格とはのう」
「昇格じゃない!隔離のランクが上がっただけだよ!」
エルミナは手を挙げる。
「アキトさん!これ、観察もしやすいですね!」
「監視前提で言うな!!」
屋敷の扉が、ひとりでに開いた。
中からは、なぜか新品の家具の匂い。
アキトは頭を抱えた。
「……管理計画、ろくなことにならないって言ったよね?」
隊長は静かに答えた。
「想定内だ」
「嘘つけ!」
ラーデンが肩をすくめる。
「アキトよ。街に屋敷を持つ男になった感想はどうじゃ?」
アキトは遠い目をした。
「……俺、ただ魔力を調べたかっただけなんだけどな……」
今日も牢屋は……出たはずなのに、俺の人生だけ出所していない気がする。




