管理計画・二日目 ネガティブなアキトで遊ぶ人たち
朝の牢屋は、静かだった。
いや、正確には重かった。
アキトは毛布にくるまり、壁を見つめている。
「……どうせ俺が触ったら、この壁も割れるんだろ」
「俺が呼吸したら、空気も壊れるんだ」
「存在自体が、もう過失なんだよな……」
エルミナは、少し離れた位置で記録帳を開きながら首を傾げた。
「アキトさん、今日は昨日より三割くらい元気ないですね?」
「その分析いらないから……」
ラーデンは湯飲みを持って、いつもの岩代わりの椅子に座る。
「ふむ。魔力使用後の思考沈降、二日目にして顕著じゃな」
「沈降っていうか、落ちてるよ!底まで!」
エルミナは、ふと何かを思いついた顔になる。
「……じゃあ、確認しますね。
アキトさん、今の気分で答えてください!」
「え、なに……」
「質問その一!
今日の朝ごはん、どうでしたか?」
アキトは即答した。
「味は普通。
でも俺が食べたせいで、パンも人生を諦めたと思う」
「メモメモ……“自己評価:パン以下”」
「書くな!!」
ラーデンが楽しそうに頷く。
「では次じゃ。
アキトよ、自分はこの街に必要だと思うか?」
「……正直?
俺がいない方が、街は静かだし、物も壊れないし、隊長も胃薬減る」
「ほう」
「ラーデンさん、目が輝いてますよ?」
「面白い症状じゃからな」
エルミナはさらに身を乗り出す。
「じゃあ最後!
アキトさん、自分の長所は?」
「……あるわけないだろ」
「魔力強すぎ」
「職歴なし」
「前科:誤解多数」
一拍置いて。
「……あ、でも」
「ん?」
「牢屋に慣れるのは、誰よりも早いと思う」
ラーデンが吹き出した。
「それは才能じゃな!」
「才能であってほしくなかったよ!」
エルミナは記録帳を閉じ、満足そうに頷いた。
「なるほど……
魔力を使いすぎると、アキトさんは“面白いくらいネガティブ”になるんですね!」
「“面白い”で済ませないで!?」
ラーデンは立ち上がり、締めくくるように言う。
「安心せいアキト。
この程度なら、牢屋の日常としては平常運転じゃ」
「基準がおかしいんだよ、この牢屋!」
外から、隊長の足音が遠くで聞こえた。
アキトは毛布を引き上げる。
「……どうせ、今日もろくな管理計画じゃないんだろ」
「その通りです、アキトさん!」
「即答!?」
今日も牢屋は、アキトの自己否定をエルミナが拾い、ラーデンが楽しそうに育てていた。




