草原訓練・四日目
ネガティブは止まらないが、手は止まらなくなった
朝の草原は静かだった。
三日目の反省を踏まえ、今日は最初から分かっている。
魔力をたくさん使うと、思考が暗くなる。
アキトは地面に座り込み、深く息を吐いた。
「……よし。今日は“どうせダメだ”前提でいこう」
「その前提、普通は立てないですよアキトさん!?」
エルミナは記録帳を構えながら、すでに困惑している。
ラーデンはというと、岩の陰に魔法障壁を張っている。
四日目にして、避難が完全にルーティン化していた。
「よい心構えじゃ」
「肯定されると不安なんだけど」
実験1:出力を上げたまま維持する
アキトは手を前に出す。
昨日より、明らかに多い魔力を流す。
ズゥン。
空気が重くなる。
「……あ、来た。嫌な感じ」
「アキトさん!?顔が曇ってきました!?」
頭の中に、黒い考えが湧いてくる。
(どうせ失敗する)
(俺、向いてないんじゃないか)
(草原に来ても迷惑かけてるし)
でも、不思議と手は震えなかった。
手のひらの光は、安定している。
「……思考は最悪なのに、魔力は言うこと聞いてる」
ラーデンが目を細める。
「分離が始まっとるな」
実験2:ネガティブなまま細かい制御
アキトは自分に言い聞かせる。
「どうせ無理だけど、ここを丸く削る」
ぽわっ。
指定した範囲の草が、綺麗な円形にへこむ。
「え、できてる……」
「アキトさん!今の“どうせ無理だけど”って言いながら成功しました!」
「成功したのに全然嬉しくないんだけど!」
頭の中は相変わらず暗い。
(これできても意味ある?)
(どうせ街戻ったら壊すし)
(牢屋の方が落ち着くし)
だが、魔力は安定している。
実験3:大量出力
「……もう少し上げてみる」
ラーデンが即座に叫ぶ。
「わしの結界を信じるな!信用するな!」
アキトは苦笑しながら、さらに魔力を流す。
草原の一角が、静かに揺れ、
風の通り道だけが、綺麗に開いた。
「……道、できてます」
「うん……気分は最悪だけど」
エルミナが記録帳に書き殴る。
「四日目:アキトさん、元気がないほど上手い」
「その評価やめて」
気づき
アキトは魔力を止め、どさっと座り込む。
「分かったことがある」
「なんですかアキトさん!」
「魔力使うと、気分は落ちる」
「はい」
「でも、落ちたからって制御できなくなるわけじゃない」
ラーデンが静かにうなずく。
「お主は感情と魔力を混ぜすぎておった」
「……なるほど」
アキトは苦笑する。
「つまり俺、落ち込んでても役には立つってことか」
「それ、かなり偉いですよ!」
エルミナは本気でそう言った。
夕方の草原は、今日も静かだった。
道も、円も、刈り取られた草も、全部ちゃんと残っている。
気分は正直、沈んだままだ。
でも
手は、ちゃんと制御できていた。
「……面白いな」
「え?」
「ネガティブなのに、できるの」
ラーデンが笑う。
「それが“使いこなす”ということじゃ」
「気分は最悪でも、魔力はちゃんと動いた。
それだけで、今日は前進だった。」




