草原魔力訓練・三日目
たくさん使うと、心が沈む
三日目の草原は、少し曇っていた。
風はあるが、昨日ほど気持ちよくない。
「……なんか、今日は静かすぎない?」
アキトは草の上に立ちながら、ぽつりと呟いた。
エルミナはいつも通り、少し離れた位置で観察記録帳を構えている。
「アキトさん!今日も安全距離は完璧です!
昨日より三歩多めに下がってます!」
「それ“安全”じゃなくて“慣れ”だよね?」
ラーデンは例によって岩の上。
今日はすでに結界を一枚張っている。
「今日は“量”を見てみるぞ。
昨日は制御じゃった。今日は消費量じゃ」
「量……嫌な予感しかしないんだけど」
実験1:連続使用
アキトは深呼吸し、手を前に出す。
ぽわっ
ぽわっ
ぽわっ
昨日と同じ、草を整える程度の魔力を、何度も使う。
草原は綺麗に整い、何も壊れない。
「……お、今日は順調じゃない?」
五回、十回。
「……あれ?」
アキトの眉が、少し下がる。
「なんか……急に、どうでもよくなってきた」
「えっ?」
エルミナが顔を上げる。
「別に……草とか整っても、意味なくない?
どうせまた伸びるし……」
「アキトさん!?ネガティブ入ってます!?」
ラーデンが目を細める。
「ほう……もう来たか」
実験2:さらに出力を上げる
「じゃあ……もう少し、使ってみる」
アキトはそう言いながら、どこか投げやりだ。
光が強くなり、草原の一部がふわりと揺れる。
だが、破壊は起きない。
その代わり
「……俺さ」
アキトは空を見上げた。
「街に戻っても、どうせまた誤解されるんでしょ」
「牢屋行って、騒ぎになって……」
「頑張っても、意味ないよね」
「アキトさん待って!?
それ魔力関係なく心の奥じゃないですか!?」
ラーデンが即座に口を挟む。
「いや、違うな。これは魔力の影響じゃ」
「え?」
「魔力を多く流しすぎると、
精神の“ブレーキ”が先に削られるタイプじゃな」
実験3:エルミナの異変
エルミナは慌ててアキトに近づこうとする。
「アキトさん、大丈夫です!
牢屋、今は結構快適ですし!」
「慰めが弱い……」
その瞬間。
エルミナの足元の草が、ふにゃっと沈んだ。
「……あれ?」
「エルミナ、離れろ」
ラーデンが珍しく強い声を出す。
「アキトの魔力に、感情が混じっとる。
周囲に“気分”が漏れ始めておる」
草原全体が、なんとなくしょんぼりした空気になる。
「草まで落ち込んでる……」
中断
「今日はここまでじゃ」
ラーデンが杖で地面を叩くと、結界が強化される。
アキトはその場に座り込んだ。
「……魔力、使いすぎると
俺、すごく嫌なやつになるんだね」
エルミナはそっと横に座る。
「でもアキトさん、
嫌なこと言っても、ちゃんと気づいて止まってます」
「……そう?」
「はい。
完全に嫌な人は、自覚しません!」
「それ慰めてる?」
ラーデンが静かに頷いた。
「重要な発見じゃ。
お主の魔力は“力”だけでなく、“思考”も削る」
ラスト
曇り空の下、草原は静かだった。
だが、昨日よりも確実に“危険”が見えていた。
アキトは手を握る。
「……使いすぎると、心が沈む」
エルミナは記録帳に大きく書き込む。
《三日目:アキトさん、魔力使いすぎると急に人生観が暗くなる》
「その書き方やめて!」
ラーデンは満足そうに笑った。
「制御せねば、力より先に心が壊れる。
これは重要な教訓じゃな」
「魔力は力だった。
でも使いすぎると、心まで削っていくものだった。」




