草原魔力検査
そろそろ本気で調べないと、手遅れになる
街から少し離れた草原は、風が気持ちよかった。
建物も人も少ない。壊すものがほぼ存在しない。
「……よし。ここなら、たぶん怒られない」
アキトはそう呟き、周囲を見渡した。
エルミナは少し離れた位置で、観察記録帳を構えている。
「アキトさん!安全距離はこれで大丈夫ですか!?」
「それ“安全”って言い方じゃないよね?」
念のため、ラーデンも岩の上に腰掛けている。
なぜか最初から避難体勢だ。
「では始めるぞアキト。今日は壊してよい日じゃ」
「いや、壊さない方向でいきたいんですけど!」
実験1:深呼吸して魔力を止めてみる
アキトは目を閉じ、深く息を吸う。
「魔力よ、落ち着け……落ち着け……」
ボン。
背後で、小石が粉砕された。
「えっ」
「アキトさん!今の深呼吸、記録します!」
「記録しなくていい!」
ラーデンが頷く。
「呼吸と連動しとるな。無意識に流れておる」
実験2:意識的に“出さない”を試す
アキトは両手を握りしめた。
「出るな……出るな……」
草が、なぜか一斉に伏せた。
「ちょっと!?地面が謝ってるんだけど!?」
「アキトさん!草原が降伏しました!」
「なんでそんな言い方するの!?」
ラーデンがメモを取る。
「抑えようとすると、圧縮されるタイプじゃな」
実験3:ちょっとだけ出してみる
「……じゃあ逆に、少しだけ出してみる」
アキトが恐る恐る、手のひらに意識を集中させる。
ぽわっ。
温かい光が灯り、
その先の草だけが、綺麗に刈り取られたように揃った。
「……え?」
「……え?」
「……ほう」
三人とも黙る。
刈られた草は、焦げてもいない。
ただ、完璧に整えられている。
エルミナが小声で言う。
「アキトさん……それ、制御……できてます?」
「……できてた、よね?」
ラーデンが、急に真面目な声になる。
「若者。これは“暴発”ではない」
「え?」
「お主の魔力は
出力が大きすぎて、制御の基準がずれている」
風が吹き、草原がさわさわと揺れた。
ラスト
アキトは手を見つめる。
今まで“勝手に起きていたこと”が、
ほんの少しだけ、理解できた気がした。
「……やっぱり、ちゃんと調べないとまずいよね」
エルミナはうなずきながら、記録帳を閉じる。
「はい、アキトさん。
次はもっと安全な実験をたぶん!」
ラーデンは、静かに笑った。
「牢屋より、よほど危険な日常の始まりじゃな」




