仮雇用と観光の板挟み
働けと言われ、見せ物にされる男。
その日、牢屋は朝から騒がしかった。
「ではこちらが、問題の牢屋になります!」
観光案内用の声を張り上げる看守の横で、
アキトは雑巾を手に、微妙な姿勢で固まっていた。
「……えっと、俺、今日から仮雇用ですよね?」
「そうだな」
即答したのは、入口で腕を組む隊長だった。
「掃除・点検・異常報告。立派な仕事だ」
「ですよね?」
「ただし」
隊長の視線が、ずらりと並んだ見学客へ向く。
「牢屋は現在、公式見学コースでもある」
「聞いてない!!」
アキトの叫びと同時に、
背後でエルミナが元気よく手を挙げた。
「はいっ!
アキトさんは“働く問題児”として展示中です!」
「展示って言うな!」
見学客たちは興味津々だ。
「これが例の……」
「魔力でモップを壊す人?」
「寝相で壁を破壊したって本当?」
ひそひそ声が、普通に聞こえる距離で飛び交う。
「エルミナさん!
説明しなくていい情報まで盛ってません!?」
「えっ、だって記録帳に」
「それは非公開で!!」
その瞬間。
アキトが雑巾を持ち替えた途端、
バチンという嫌な音とともに、
雑巾が煙を上げて焦げ落ちた。
「わあ!」
「出た!」
「これが魔力暴発!」
見学客が拍手しそうな勢いでざわめく。
「だからやりたくなかったんだよ!
人前作業!!」
「でもアキトさん」
エルミナが真顔で言う。
「働いてるところ、ちゃんと見せないと
“仮雇用の意味がない”です!」
「観光の意味もない方向で頼む!」
そこへ、牢屋奥からのんびり声。
「ほっほ。
働きながら見られるとは、
まるで動物園じゃのう」
「ラーデンさん!?
例えが最悪です!」
「安心せい。
ワシは“長期展示枠”じゃ」
隊長がこめかみを押さえた。
「……結論を言う」
全員が静まる。
「アキトは」
一拍置いて、
「働け。だが」
ずらりと見学客を見る。
「目立つな」
「無理です!!!」
こうしてアキトは、
・働かないといけない
・働くと騒ぎになる
・騒ぐと観光客が増える
という三重苦に突入したのだった。
その日の夕方。
報告書にはこう書かれた。
仮雇用制度、
観光との併用は再検討を要する。
なお、理由欄は
三ページに渡って真っ黒だった。
今日も牢屋は……働けと言われ、見るなと言われ、結局見世物だった。




