エルミナの「反省してない追記帳」
王女が帰って、牢屋はようやく静かになった。
……表向きは。
エルミナは膝の上に帳面を置き、真剣な顔で羽ペンを走らせていた。
「よし……“反省追記帳”、開始……」
アキトはスープをすすりながら、嫌な予感しかしなかった。
「エルミナ、それ“反省”って顔じゃないよね?」
「失礼です、アキトさん。ちゃんと反省してます」
そう言って、彼女は堂々と読み上げる。
【反省追記・第一項】
王女殿下はとてもお優しかった。
パンツに名前を付ける発想は天才的だったと思う。
次回は正式名称として採用したい。
「反省どこ行った!?」
エルミナは首をかしげた。
「え? だって感動しましたし……」
ラーデンが横から覗き込み、くつくつ笑う。
「ほう、追記帳か。わしの時代で言う“やらかしの正当化文書”じゃな」
「違います! 記録です!」
エルミナはむっとして、さらに書き足す。
【第二項】
隊長は顔色が悪かった。
胃に優しいお茶を用意すべきだったかもしれない。
※ただし反省はしている(気持ち的に)
「※で済ませるな!」
エルミナは真顔で頷いた。
「ちゃんと書いてあります。反省してるって」
「気持ち的に、って逃げ道だよね!?」
それでも彼女は止まらない。
【第三項】
王女殿下が帰ったあと、反省昼食が出た。
味は薄かったが、学びはなかった。
次はもっと美味しくしたい。
「学びなかったって自分で書いてる!」
「だって……昼食は美味しくするものですから」
アキトは天を仰いだ。
「反省帳って、“次どうするか”を書くものじゃなかったっけ……」
ラーデンは肩をすくめる。
「まあよい。歴史とは、こうして都合よく書き換えられるものじゃ」
エルミナは満足そうに帳面を閉じた。
「はい。反省追記、完了です!」
「完了してないよ!? 何一つ解決してない!」
しかし彼女はにこっと笑うだけだった。
「でも、記録は残りました」
アキトはその一文に、なぜか背筋が寒くなった。
今日も牢屋は……反省より、追記のほうがよく増える。




