王女帰還後・反省昼食の昼
王女の馬車が見えなくなった瞬間、
牢屋の空気は、目に見えて“戻った”。
「……行ったな」
アキトがぽつりと言うと、
エルミナはその場でへなへなとしゃがみ込んだ。
「アキトさん……生きて帰れました……」
「帰ったのは王女様だけどな」
ラーデンは壁にもたれ、満足そうにうなずく。
「うむ。歴史的視察は無事終了じゃ。
生き残った者を誇りに思うぞ」
「誇るな」
そのとき
ガラッ、と牢屋の扉が開いた。
現れたのは、隊長だった。
顔色は土気色。
目の下には、王女視察三日分のクマ。
「……昼食だ」
そう言って、無言で机に鍋を置く。
エルミナが鍋を覗き込み、首をかしげた。
「え? 今日のメニュー、なんですか?」
隊長は、低く答えた。
「反省昼食だ」
「……反省?」
「具はある。
味もある。
だが、目的は“反省”だ」
アキトが慎重に匙ですくい、口に運ぶ。
「……うわ、薄い」
「塩を減らした」
「なんで」
「反省するためだ」
エルミナも一口飲み、目を輝かせる。
「優しい味ですね!」
「反省しやすい味にした」
ラーデンはしみじみと飲みながら言った。
「これは良いスープじゃな。
飲むほどに、自分が何をしたか思い出す」
「それが目的だ」
隊長は椅子に座らず、立ったまま言う。
「王女視察は終わった。
パンツに名前を付けられた件も……報告書に書いた」
アキトが噎せた。
「書いたの!?」
「書かない選択肢があると思ったか」
エルミナは胸を張る。
「でも! 王女様、楽しそうでした!」
「それが一番の問題だ」
隊長は深く、深くため息をついた。
「いいか。
今日のこの昼食は、罰ではない」
三人が見る。
「次の災厄に備えるための、準備運動だ」
ラーデンが静かに笑った。
「ほう……次がある、と」
「あるに決まっている」
アキトはスープを見下ろし、小さくつぶやいた。
「……俺、何もしてないんだけどな」
鍋の中から、
どこからともなく、微かな声がした気がした。
ご主人、味付け薄いね
アキトは、そっと蓋を閉めた。
今日も牢屋は……反省しているのに、反省が足りない味がした。




