パンツよ永遠にーそして物語は妙な方向へ転がり出す
パンツ亡霊騒動から数日。
街はようやく日常を取り戻していた。
……はずだった。
「アキトさん! これ見てください!」
「……なんで街の掲示板に、俺とパンツの似顔絵が貼ってあるんだ?」
「“パンツの英雄”として称えられてます!」
「称えられたくねぇ称号No.1だよ!!」
どうやら亡霊パンツを“光の守護精霊”と勘違いした人が多く、
街では軽いブームが起きつつあった。
パンツの……ブームである。
地獄か?
「アキトさんだ! パンツの加護が宿る男!」
「あなたのパンツはまだ浮くのですか?」
「浮かねぇよ!!!」
道を歩くだけでこれである。
子供たちの間では、
“パンツさまごっこ”なるものが流行りはじめ
「みてみてー! パンツさまー!」
「ぶわぁぁぁっ!!?」
ただの布を振り回す子供の群れに、
アキトは涙目になった。
「……俺はいつから異世界のパンツ神になったんだ」
「アキトさん、人気ですよ!」
「喜べるかぁぁ!!」
訓練場に戻ると、エルミナがうつむいていた。
「アキト……
本当にごめんなさい。全部、わたしの魔法のせいで……」
「いや……まあ、だいたいそうだな」
「う゛っ……!」
「でも、仕方ないだろ。お前、頑張ってたもんな」
「アキト……」
「それに、パンツの亡霊……
本当に俺たちを守ってたのかもしれないし」
「えっ?」
「ほら、一度も俺たちに直接攻撃してこなかっただろ?」
「……たしかに」
「もしかしたら……
“なにかに備えてた”のかもしれない」
その言葉に、エルミナが小さく身を震わせた。
「な、なにかって……?」
「知らん。知らんけど……
あの感じ、単なる亡霊っていうより……
“意志”みたいなの、あったろ?」
「……」
エルミナはゆっくりうなずく。
「じゃあ……パンツさんは、
わたしたちを……どこかへ導こうとしてた……?」
「導くパンツってなんだよ。
全然ありがたくないからな?」
ふいにエルミナが気づいたように声を上げた。
「そういえばアキト、これ……」
「ん?」
「亡霊が消えたあと、足元に落ちてたの。
ただの布切れに見えるけど……」
そう言って差し出されたのは、
指先ほどの小さな布片。
しかし。
「……うっすら光ってね?」
「やっぱり見えるわよね!?」
微弱だが確かに魔力反応があった。
「これ……第三形態が残した……?」
「たぶん……“核”みたいなものかもしれないわ」
「核!? パンツに核つけるな!!」
アキトは叫ぶが——
その布片は、まるで心臓の鼓動のようにかすかに震えていた。
エルミナがぽつりと呟く。
「……まだ終わってない、って感じがする」
「おいやめろ。フラグ建てるな」
街の空は青く、風は穏やか。
しかしアキトの心には、妙なざわつきが残っていた。
亡霊パンツの“意志”。
残された布片。
繰り返される不可解な魔力反応。
……いや、考えすぎか?
「アキトさん、次の訓練どうしましょう?」
「まずパンツから離れよう!!
パンツと関係ないやつにしよう!!!」
「そ、そうね……」
二人は笑いながら歩き出した。
その後ろで、エルミナのポケットの中。
小さな布片が、ひとりでに震えていた。
まるで——呼吸をしているように。




