公式監修会議 (誰も得をしない)
会議室は、やけに広かった。
そして、牢屋より静かだった。
アキトは椅子に座りながら、内心で思う。
(……俺、なんでここにいるんだ)
長机の向こうには、
隊長、文官、観光担当、記録官、
そして、なぜかラーデン。
エルミナは端っこで、
背筋をピンと伸ばしている(伸ばしすぎて逆に怪しい)。
「では始める」
隊長が、異様に偉そうな声で言った。
「本日の議題は
“アキト関連コンテンツの公式監修について”である」
アキトは口を開く。
「……あの、俺そんな立場じゃ」
「黙れ。関係者だ」
(関係者って何だよ)
文官が資料をめくる。
「現在、非公式グッズ、展示、歴史書、脚注、
観光案内、朗読会、解説板」
「待って待って待って!!
朗読会!?」
「脚注限定朗読会です」
「なんで脚注だけ!?」
ラーデンが、にこにこしながら手を挙げる。
「史料とはな、
本文より脚注が真実を語るものじゃ」
「歴史歪めるなよ!」
観光担当が言う。
「問題は、“公式として何を正史にするか”です」
隊長が深く頷く。
「うむ。現在、街では」
書類を一枚、叩きつける。
・アキトは呪われし英雄
・パンツは意思を持つ守護霊
・牢屋は聖域
・エルミナは監視天使
・ラーデンは“時代の語り部”
「誰がそうした」
全員が、一斉にエルミナを見る。
「ち、違います!!」
エルミナが立ち上がる。
「全部!善意です!!」
「どの辺がだ!」
「アキトさんが困らないように!!
歴史にちゃんと残るように!!」
「残りすぎだ!!」
ラーデンが頷く。
「善意ほど、歴史を歪めるものはない」
「じじい黙れ!」
隊長はこめかみを押さえながら言った。
「……よろしい。では決める」
全員が息を呑む。
「“公式監修版”を作る」
アキト「最悪の単語出た!」
「公式が出れば、非公式は抑えられる」
観光担当「なるほど!」
文官「では監修者は」
全員の視線が集まる。
「アキト、お前だ」
「えっ」
「当事者だ。
文句があるなら、正式に修正しろ」
アキトは、静かに言った。
「……俺、自分の人生の監修とか無理なんだけど」
隊長は即答した。
「皆そう言う」
エルミナが、そっと言う。
「でも……アキトさんが監修なら、
嘘は減りますよね?」
アキトは黙った。
……減るかもしれない。
でも。
(俺の知らない地獄が、正式に固まるだけじゃないか?)
ラーデンがペンを取り、嬉しそうに言った。
「では、第二版・正式歴史書、執筆開始じゃな」
「やめろ!!今すぐやめろ!!」
会議は終わった。
何一つ解決していないまま。
今日も牢屋は……会議室より、よほど真実に近かった。




