アキトが自分の項目を読まされる回 (ラーデン歴史書・公文書化後)
牢屋の昼は、今日もやけに平和だった。
アキトは壁にもたれ、昼のパンをちぎりながら、
「……最近、妙に誰も怒鳴り込んでこないな」
と独り言をこぼしていた。
そのとき、鉄格子の向こうから足音がした。
「アキトさん」
エルミナだった。
珍しく、変な魔法陣も、ノートも持っていない。
代わりに、分厚い本を両手で抱えている。
「これ、読んでほしいんです!」
「え、なに? 反省文? 俺の?」
「ちがいます! 歴史です!」
嫌な予感が、した。
ラーデンが、どこからともなく現れる。
「ほっほ。ついにその時が来たか」
「何の時ですか」
「己が“史料”になる時じゃ」
「やめて」
エルミナは本を開いた。
ページの上には、妙に格式ばった文字。
『都市治安史・第七巻
特異事例:アキト事案』
「やめて!!!!!」
「大丈夫です! 善意でまとめました!」
「善意で人を事案にするな!!」
エルミナは咳払いをして、読み上げる。
『当該人物アキトは、異世界より突如出現した男性である。
初期状態において、衣服を持たず、
呪われた下着と強い因果関係を示した。』
「因果関係って何!?」
『本人に自覚はないが、周囲の魔道具・日用品・建築物に
継続的な破損影響を与える特異体質を有する。』
「“体質”にされた……」
『騒音・誤解・善意の連鎖により、
一時的仮出所と再収監を繰り返す。
しかし住民評価は
“害はない”“むしろ面白い”“見学したい”
に分類される。』
「分類されてる!?」
アキトは本を閉じた。
「……これ、公文書?」
エルミナ、満面の笑み。
「はい! ラーデンさんの筆致が“史料価値あり”って!」
ラーデンがうなずく。
「歴史とはな、書いたもん勝ちじゃ」
「最悪だよこの学問!!」
アキトは、しばらく黙った。
そして、ぽつり。
「……俺、知らない間に、
街の一部になってない?」
エルミナは少し考えてから、元気よく答える。
「はい! もう“風物詩”です!」
「人間を季節イベントみたいに言うな!!」
牢屋に、笑い声が響いた。
誰も悪気はなかった。
それが一番、救いようがなかった。
今日も牢屋は……俺の知らない“公式設定”で満ちていた。




