アキト視点 知らない間に、三段階で終わっていた話
第一段階、軽い違和感(まだ笑っている)
牢屋の朝は、だいたいいつも同じだ。
鉄格子、薄い光、ラーデンの咳払い。
なのに。
「……なんで、外がこんなに賑やかなんだ?」
観光客の声が聞こえる。
笑い声、ざわめき、拍手。
「え、今日は祭り?」
「いやのう」
ラーデンがあっさり言った。
「見学じゃ」
「何の?」
「牢屋じゃ」
「……は?」
エルミナが胸を張る。
「はい! アキトさん関連展示です!」
その言い方が、もう嫌だった。
第二段階、具体を聞かされる(笑顔が固まる)
連れて行かれた通路。
壁一面に、見覚えのあるものが並んでいる。
・壊れたモップ
・焦げた鍵
・折れたベッドの脚
・寝相再現図(なぜか精密)
「ちょっと待って。
これ全部、俺?」
「はい!」
エルミナは即答した。
「アキトさんの軌跡です!」
「人生を言い換えるな!」
説明札を読む。
《魔力漏出による自然破壊例》
《本人に悪意はありません》
《現在も無自覚》
「いや、最後の一文いらないだろ……」
さらに奥。
ガラスケースの中に、
白く、神々しく、布が鎮座していた。
「……それは」
エルミナが小声で、誇らしげに言う。
「“残響監修”です」
「監修!?」
第三段階、決定打(理解してしまう)
その瞬間、背後から声。
「次の回は“ご主人不在でも成立した展示”になります〜」
別の観光客。
「パンツの人は今日いないんですか?」
「いませんが、展示はあります!」
世界が、俺を必要としていない。
「……あれ?」
アキトは、ようやく気づいた。
・俺がいなくても回っている
・俺の失敗が資産になっている
・俺のパンツが主役になっている
そして極めつけ。
ラーデンが肩を叩く。
「安心せい」
「何がですか」
「これはもう、歴史じゃ」
アキトは、何も言えなくなった。
今日も牢屋は責任だけは、後から追いかけてくる。




