ご主人不在でも成立する展示会
展示会初日。
本来いるはずの主役は、牢屋の奥で布団をかぶっていた。
「……俺、出なくていいんですか?」
アキトが小声で聞くと、
隊長は目を合わせず、乾いた声で答えた。
「出るな。頼むから出るな」
そう言われ、アキトは素直に引き下がった。
結果、それが最適解だった。
展示会場には、妙に行列ができていた。
入口の看板には堂々と書かれている。
『元・呪われたパンツ展示(監修:パンツ)』
「え、本人いないの?」
「いないらしいよ」
「逆に安心じゃない?」
「主役がいない展示って新しいよね」
そんな会話が飛び交う中、
ガラスケースの中央には、
“実体のないはずのパンツ”の残響イメージが、
なぜか誇らしげに浮かんでいた。
『ご主人は欠席である』
『だが我は在席である』
どこからともなく聞こえる声に、
観光客はざわめく。
「しゃ、喋った!?」
「演出?」
「この距離感、逆に推せる……」
エルミナは展示係として立たされていた。
「え、えっと……こちらが、その……」
「“ご主人”さんの……パンツ……です」
顔は真っ赤だが、説明は雑。
だが
『説明不足である。もう少し敬意を持て』
「ひゃっ!?す、すみません!!」
そのやり取りに、
観光客の目が一気に輝いた。
「なにこの関係性」
「パンツの方が主導権握ってない?」
「ご主人って呼び方、公式なの?」
隊長は会場の隅で、頭を抱えていた。
(主役不在)
(説明員パニック)
(展示物が勝手に喋る)
だが
「隊長!来場者数、想定の三倍です!」
「物販、パンツ関連だけ完売です!」
「……なぜだ」
誰もアキトを求めていない。
誰も“本人”に会いたがっていない。
皆が欲しいのは
語るパンツだった。
その頃、牢屋。
アキトは湯飲みを持って、くしゃみをした。
「……なんか今、世界から切り離された気がする」
隣でラーデンが笑う。
「主役がおらん方が回る展示会というのも、
なかなか味わい深いのう」
「それ、褒めてます?」
「うむ。
“ご主人不在でも成立する”という評価は、
ある意味、完成形じゃ」
アキトは黙り込んだ。
展示会場では、
パンツの残響が満足そうに締めくくる。
『ご主人は来ぬ』
『だが伝説は来場した』
『それで十分である』
拍手が起きた。
隊長は、静かに天を仰いだ。
今日も牢屋は……主役不在で、なぜか満員御礼だった。




