なぜか「公式化して抑えよう」案が出る
隊長は、机に突っ伏していた。
理由は簡単だ。
机の上に、非公式グッズの山が積まれているからである。
「……なぜ……牢屋で……観光土産が……」
木彫りのアキト像。
「今日も牢屋は元気です」と書かれたマグカップ。
夜に光る“寝相再現アキト人形”。
そして、誰が作ったのか分からないパンツ型のお守り。
隊長は、ゆっくりと顔を上げた。
「エルミナ」
「はいっ!」
「……説明を」
「えっとですね! たぶんですけど! 観光客さんが勝手に作って! 勝手に売って! 勝手に流行ってます!」
「“たぶん”で済ませる量じゃない」
アキトは牢屋の柵にもたれ、他人事の顔でそれを眺めていた。
「俺、なんか……知らないうちに街の名物になってません?」
「なってるんだよ」
隊長の声は、乾いていた。
そこへ、ラーデンがひょっこりと口を挟む。
「ふむ。止められぬなら、流れを変えるのが政治というものじゃな」
「……何を言い出す気ですか」
「つまりじゃな」
ラーデンは、非公式グッズの一つを手に取る。
「公式化して抑えればよい」
沈黙。
次の瞬間。
「正気か!?」
隊長の叫びが、牢屋に響いた。
「抑えるために! 公式にする!? 意味が分からない!」
「だが現に、非公式が野放しじゃろう? 品質も世界観もバラバラ。
公式を出せば、“それ以外は偽物”と言える」
「その発想がもう末期だ!」
エルミナが、ぽんと手を叩いた。
「なるほどです! 公式なら、私が検品できますね!」
「君は余計に被害を広げる側だ!」
アキトは、少し考えてから言った。
「でも……公式なら、俺の顔もうちょっとマシになりません?」
「基準そこか!?」
隊長は、震える手で書類をめくった。
「公式化するなら……申請、予算、責任部署、監修……」
その文字列を見た瞬間、
隊長の魂が一段階抜けた。
「……監修者」
全員の視線が、自然とアキトに集まる。
「え、俺?」
「主役ですから!」
「無理無理無理! 俺、働けない設定なんで!」
「仮雇用中だ!」
「そこ拾う!?」
ラーデンは、満足そうに頷いた。
「よいではないか。
働いてない主人公が、公式に働かされる瞬間じゃ」
隊長は、天を仰いだ。
「……なぜ私は、牢屋を観光地にして、
さらに公式グッズまで出す流れを止められなかった……」
その横で、エルミナはもうノートを開いている。
「『公式グッズ計画・第一案』っと……!」
「書くな!」
牢屋の外では、すでに観光客の声が聞こえていた。
「次は公式グッズ出るらしいよ!」
「本物の牢屋で買えるんだって!」
隊長は、静かに悟った。
抑えようとした結果、
一番派手に広がるやつだ、これ。
今日も牢屋は……止めるために、正式に狂う場所だった。




