パンツの亡霊・第二形態(※気のせいです)
夜の訓練場に、冷たい風が吹いた。
砂がさらりと舞い、木製の人形がきしむ。
エルミナが真剣な顔で杖を構えた瞬間、
アキトの背筋にだけ、ぞわりと冷気が走った。
「……なあエルミナ。今日の訓練、本当に“気のせい枠”で終わるよな?」
「大丈夫! 今日は絶対に暴走しないわ! だって、暴走しない魔法だけを選んできたもの!」
その自信だけは、いつも世界最強クラスだ。
「で、その“暴走しない魔法”って具体的には?」
「“衣服の構造を可視化する魔法”よ!」
「嫌な予感しかしねぇ!」
エルミナの杖先が光を帯びる。
そして
「《ミシン目解析・簡易版》!」
ぱあっと訓練場全体に光が走る。
砂の上、木人形の服、アキトの服……
あらゆる布素材が淡い光のラインで浮かび上がった。
「おお、これは意外と便利……」
と思ったのは一瞬。
次の瞬間。
「……アキト?」
「ん?」
「なんで……そっちだけ“浮遊してるパンツ”が見えるの?」
「は?」
アキトの視界にも入ってしまった。
白いパンツが、一枚。
風もないのにふわぁ……っと、孤独な旅をしていた。
「前回の亡霊じゃねぇか!!!!」
「落ち着いてアキト! きっと気のせいよ!
だってこの魔法、存在しない布は映らないから!」
「じゃあなんで存在してるんだよォォォ!!??」
浮遊パンツは、ゆっくりこちらに向きを変える。
まるで“見つけた”と言わんばかりに。
「第二形態……? なんか前よりモーションが優雅なんだけど」
「やめろ! パンツに成長要素いらねぇ!」
エルミナが慌てて杖を構える。
「浄化魔法でなんとかする! 《清浄の光》!」
ぱあああっ!!
パンツ、光る。
そして、さらに存在感が増す。
「悪化しとるやんけ!!」
「ち、違うの! 浄化したら“本来の姿”が強調されちゃって!」
「パンツの本来の姿強調すな!!!」
そこへ、ひゅるりと風が吹く。
亡霊パンツが、ふわりとエルミナの頭上へ。
「ちょっ……やめっ……来ないでっ……!!」
アキトは反射的に走る。
そして、全力でエルミナを抱えて横に飛んだ。
直後、空中に舞っていたパンツは
ぽすん、と地面に着地し
音もなく消えた。
二人、しばらく硬直。
「……第二形態、消滅?」
「たぶんな……いや、“気のせいです”ってことにしとこ」
「う、うん……」
沈黙。
そしてエルミナが小さくぼそり。
「その……助けてくれて、ありがと」
「いや、まあ……パンツから守るって人生初だけどな……」
「アキトって優しいわね」
「パンツ基準で褒めんな!」
夜風が吹き抜ける。
訓練場は、何事もなかったかのように静かだった。
——次の亡霊は、まだ眠っているとも知らずに。




