非公式グッズが先に出回る
朝の牢屋は、いつもより騒がしかった。
理由は簡単だった。
観光客が増えすぎて、売り子まで発生していたからである。
「さーてさーて!
“牢屋名物・パンツ男アキト木彫り人形”!
一家に一体、夜中に光りますよー!」
「光るな」
アキトは即座にツッコんだ。
自分の似顔絵
いや、似ていない。
全裸で、パンツだけ誇張され、目が三つある。
「アキトさん、あれ公式ですか?」
「違う。絶対違う」
エルミナは売り子の横で、
「へぇ……」「すごいですね……」と
完全に感心していた。
ラーデンはというと、
木彫り人形を手に取り、重さを確かめてから一言。
「……作りは悪くないな。呪いも入っとる」
「入れるな」
問題は、その直後に起きた。
隊長が巡回に現れ、
露店を一目見た瞬間
その場で立ち止まり、静かに震え始めた。
「……誰の許可で」
「隊長! 見てくださいこれ!
アキトさんが二頭身で可愛く」
「誰 の 許 可 で」
売り子が胸を張った。
「もちろん、非公式です!」
ドン。
隊長の膝が地面についた。
「非公式……先に……?」
「はい!
昨日の夜からもう百個売れてます!」
「百……」
隊長は空を仰いだ。
(公式案が通る前に、
非公式が流通する……?
この街は……もう……)
さらに地獄は続く。
「隊長ー!
こっちは“寝相再現マット”です!」
「“パンツ怪談朗読水晶”もありますよ!」
「“牢屋生活一日体験チケット”は完売でーす!」
隊長はその場で報告書用の紙を取り出し、
無言で三枚破った。
「……止めろ。
今すぐ……止めろ……」
だが観光客は止まらない。
アキトは遠くからその光景を見て、ぽつりと言った。
「俺……仮雇用ですよね?」
「そうですね!」
「じゃあ……給料出ますよね?」
隊長はゆっくり振り向いた。
「……それは……
“検討中”だ」
その目は、完全に死んでいた。
夜。
牢屋に戻った三人の前に、
なぜか非公式グッズが一つ置かれていた。
“しゃべるパンツ・ミニ”
ラーデンが触ると、
小さく囁いた。
『ご主人……また増えましたね……』
「やめろ」
アキトは布をかぶって横になった。
エルミナは記録帳に書き足す。
《本日:非公式グッズ大量発生
隊長、魂が半分抜ける
アキトさんは今日も働いていない》
今日も牢屋は、
公式より先に、噂と商品が完成する場所だった。




