パンツ展示(非公式)事件
牢屋が〈公式見学コース〉になって三日目。
問題は、“公式ではないもの”が勝手に増え始めたことだった。
「……なんで、あそこにロープが張ってあるんですか?」
アキトは、牢屋の壁際を指さした。
そこには小さな木札と、白布を被せられた何かが、厳重そうに囲われている。
エルミナは、なぜか胸を張った。
「はい!
見学のお客さんから“例のパンツは見られないんですか?”って聞かれたので!」
「誰が許可した」
「えっと……雰囲気で?」
その瞬間、アキトの胃が嫌な音を立てた。
白布の横の木札には、手書き文字。
《伝説の呪いのパンツ(非公式展示)》
※現在は消滅しています
※たぶん
※声が聞こえる場合があります
「※多すぎない?」
「親切設計です!」
ラーデンはその様子を見て、にやにやしている。
「ほっほ。
“たぶん消滅”は良い表現じゃ。学術的じゃな」
「賢者が肯定しないでください」
そこへ、見学客の一団がやってくる。
「おお、これが……」
「パンツ男の……」
「声が聞こえるって本当?」
エルミナは勢いよく説明を始めた。
「はい!
こちらはアキトさんが最初に履かされ、三日三晩苦しめられ、最後は命を賭して街を救った」
「盛るな」
「尊いパンツです!」
「やめろ」
その瞬間。
……ご主人……
アキトの耳元で、確かに聞こえた。
「今、聞こえたよね?」
「聞こえました!」
「聞こえたのかよ!」
見学客がざわつく。
「本当に呪われてるぞ」
「生きてる?」
「動いた?」
白布が、ふわりと揺れた。
誰も触れていない。
風もない。
エルミナが、目を輝かせる。
「展示効果、すごいですね!」
「効果じゃない!事故だ!」
そこへ、隊長の低い声が落ちてきた。
「……何を、展示している」
全員、固まる。
隊長は木札を読み、ゆっくりと目を閉じた。
「“非公式”と書いてあるから、公式じゃないと思ったか?」
「はい!」
「正直でよろしい」
次の瞬間、隊長は看守に指示を出した。
「即時撤去。
記録帳は没収。
展示企画者は反省文十枚」
エルミナは小さく手を挙げた。
「裏帳に書いてもいいですか?」
「ダメだ」
白布は回収され、ロープも外され、
パンツ展示はなかったことになった。
……はずだった。
その夜。
牢屋の壁に、小さな貼り紙が増えていた。
《ここに、かつてパンツがあった》
アキトは天井を見上げた。
「……もう、消えてくれ」
ご主人、展示、楽しかったですね……
「楽しくない」
ラーデンは笑った。
「ほっほ。
“非公式”が一番記憶に残るものじゃ」
エルミナは、こっそり裏帳を開き、書き足す。
《パンツ展示、短時間だったけど大成功!
次は写真かな?》
隊長の胃が、また一つ、静かに死んだ。
今日も牢屋は……展示物が増えた分だけ、言い訳も増えた。




