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全裸で異世界落ちした俺の、今日も誤解される街暮らし 〜魔法少女見習いと亡霊パンツと牢屋生活〜  作者: 月影ポンコツ


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見学コース拡張で地獄が倍増

 その日、牢屋は朝から嫌な予感に満ちていた。


 理由は簡単だ。


「お知らせでーす! 本日より牢屋見学コース、拡張されました!」


 看守の声が、やけに明るい。


 アキトは鉄格子にもたれたまま、ゆっくり顔を上げた。


「……拡張?」


「はい! 今までは通路からの見学だけでしたが」


 看守は紙を読み上げる。


「本日より、

 ・囚人との距離を縮める“体感ゾーン”

 ・日常を学べる“生活展示エリア”

 ・人気者との交流時間(短時間)

 を追加します!」


「最後のやつ、嫌な予感しかしないんだけど」


 隣でラーデンが楽しそうに笑った。


「ほほう、“交流”とな。わし、サインでも用意するかの」


「用意しなくていいです!」


 その瞬間。


「アキトさーん!!」


 元気すぎる声と共に、エルミナが駆け込んできた。


「見ました!? 見学コース拡張ですって!」

「見たし、聞いたし、今すごく後悔してる」


 エルミナは目を輝かせる。


「これで牢屋の魅力がもっと伝わりますね!」

「牢屋に魅力を足すな」


 だが、すでに遅かった。


 ガチャリ、と扉が開く。


「こちらが“問題児ゾーン”です!」

「名前ひどくない!?」


 観光客たちがぞろぞろ入ってくる。


「わぁー」

「本物だ」

「寝相が悪い人?」


「その噂まだ生きてるの!?」


 エルミナが横で説明を始める。


「こちらの方がアキトさんです!

 現在は仮雇用中で、魔力がちょっとだけ暴発します!」


「ちょっとって言った!?」


 拍手。


 その拍子に、アキトが寄りかかっていた鉄格子が


 バキン。


「……あ」


 沈黙。


 ラーデンが即座に言った。


「見学ポイントじゃな。“自然破壊実演”」


「実演じゃない!!」


 次の展示。


「こちらが“生活エリア再現”です!」


 牢屋の中に置かれた簡易ベッド、机、食器。


「再現っていうか、普段そのままですよね?」


「リアルが一番ですから!」


 観光客が覗き込む。


「へぇ……」

「この人、ここで寝てるんだ」


 恥ずかしさでアキトが顔を伏せた瞬間


 ベッドがギシッと音を立て、脚が一本外れた。


「壊れたー!」

「すごーい!」


「すごくない!!」


 エルミナはメモを取っている。


「展示物の耐久性、要改善……」

「そこじゃない反省して!」


 そこへ。


「……何を、している」


 低い声。


 全員が振り向く。


 隊長が立っていた。


 書類の山を抱え、目の下に深いクマ。


「説明しろ」


 エルミナがピシッと敬礼。


「はい! 牢屋見学コース拡張です!」

「誰が許可した」


「えっ……雰囲気で?」


 隊長は無言で頭を押さえた。


「……仮雇用中の問題児を、

 なぜ観光資源にした」


 ラーデンが涼しい顔で言う。


「儲かっておるぞ」

「聞いてない」


 その瞬間。


 観光客の一人がアキトに近づき、言った。


「触っていいですか?」


「ダメです!」


 だが、指先がかすった。


 パァン。


 近くの展示札が爆ぜ飛ぶ。


「きゃー!」

「魔力だ!」


 隊長、完全に無言。


 しばらくして、震える声で言った。


「……拡張は、今日で終了だ」

「えー!」

「えーじゃない!」


 観光客が引き上げ、牢屋は元の静けさを取り戻す。


 壊れた格子、折れたベッド、散らばる展示札。


 隊長はそれを見渡し、深くため息をついた。


「報告書が……また増える」


 アキトは鉄格子の残骸を見ながら呟いた。


「……俺、仮雇用だよね?」

「ええ! 一応!」

「観光客より扱い軽くない?」


 ラーデンが笑う。


「名物とはそういうものじゃ」


 エルミナはにこっとした。


「でも、人気出ましたよ!」

「喜ぶポイントそこ!?」


 今日も牢屋は……広くなったぶん、逃げ場がなくなった。

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