牢屋が〈公式見学コース〉になる
「……で、なんで俺たち、檻の中から手を振ってるんですか」
鉄格子の向こう、整然と並んだ見学客に向かって、アキトは乾いた声で言った。
「だって公式ですから!」
エルミナは胸を張って答える。
その胸には、なぜか新しく支給された札が下がっていた。
〈牢屋見学案内・見習い〉
「正式決定だそうです! “街の安全と問題児の共生を学ぶ教材”として!」
「教材が俺なの?」
「はい!」
即答だった。
牢屋の外では、子どもたちが目を輝かせている。
「ねえねえ! あの人が“パンツの人”?」
「寝相で鐘鳴らした人だ!」
「うわー! 檻なのに快適そう!」
「評価ポイントそこなの!?」
ラーデンは檻の奥で、悠々とお茶を啜っていた。
「いやぁ、見世物になる牢屋も悪くないのう」
「爺さん、完全に観光資源側の顔してる!」
壁にはいつの間にか説明板まで貼られている。
【展示①:問題児アキト】
・魔力が漏れやすく、道具が壊れやすい
・本人に自覚はない
・よく捕まるが悪意はない
「説明文ひどくない!?」
エルミナは記録帳を抱えて、元気よく案内を続ける。
「こちらが“日常暴発エリア”です!」
「エリアって言うな!」
その瞬間。
カン、と軽い音を立てて、牢屋の鍵がひび割れた。
「……あ」
「アキトさん、深呼吸してください! 今、魔力ちょっと漏れてます!」
「見学中に漏れるなって無理じゃない!?」
見学客たちはざわめき、逆に興奮し始める。
「本当に壊れた!」
「すごい! 本物だ!」
隊長は通路の奥で、報告書を抱えたまま頭を押さえていた。
「……なぜだ。なぜ牢屋が、街一番の人気施設になっている」
その足元には、新しい立て看板。
〈次回公開:牢屋で働くということ〉
アキトは天井を見上げ、ぽつりと呟く。
「……俺、仮雇用された覚え、まだないんだけど」
エルミナは満面の笑みで言った。
「でもアキトさん、もう“公務”ですよ!」
「今日も牢屋は……出られないのに、街で一番開かれている。」




