記録帳フルコンボ胃痛回 〜隊長、静かに机に突っ伏す〜
隊長は、その朝
机の上に積まれた一冊の分厚い記録帳を見て、すでに嫌な予感がしていた。
表紙には、丸文字でこう書かれている。
《牢屋見習い観察記録帳・続編・続編・改訂版・完全版》
記録者:エルミナ(がんばった!)
「……続編が三回ある時点でおかしい」
そう呟きながら、隊長は重い手で一ページ目を開いた。
1ページ目
【一日目】
アキトさん、仮隔離から帰還。
牢屋の空気が急にあたたかくなった。
たぶん気温。
隊長は眉をひそめる。
「……気温ではない」
3ページ目
【反省会】
私は反省した。
でも悪いのは魔法。
魔法は反省してない。
「してほしいのはお前だ」
隊長、胃がきしむ。
7ページ目(落書き付き)
アキトさんが戻ってきた瞬間、
気づいたら抱きついていた。
理由:体が先に動いた。
※これは不可抗力です。
横には、
ラーデンの似顔絵(角つき・悪魔風)と、
吹き出しで「ほっほっほ、若いのう」と書かれている。
「……牢屋で何が起きてる」
12ページ目(急に丁寧)
【静かな夜】
アキトさんは何も言わなかった。
それが逆にうるさかった。
「意味がわからない」
隊長、こめかみを押さえる。
18ページ目(文字が踊っている)
【防音改修案】
壁を分厚くすればいいと思った。
魔法でやった。
結果:壁が増えた。
行き止まりができた。
「牢屋を迷宮にするな」
胃、第二段階の痛み。
25ページ目(最終章)
【まとめ】
今回の件で学んだこと。
・隔離はさみしい
・アキトさんがいないと牢屋は静かすぎる
・静かすぎるのも問題
・次はうまくやる
その下に、小さく追記。
※次もたぶん失敗する
隊長は、記録帳をそっと閉じた。
そして
机に額を打ち付けることなく、
静かに、深く、ゆっくりと突っ伏した。
「……報告書は、以上ですか」
その背後で、看守が恐る恐る尋ねる。
隊長は顔を上げずに答えた。
「いや……
これはもう、病状報告だ」
その頃、牢屋では。
「エルミナよ、あの記録帳、隊長に渡したのか?」
「はい!ちゃんと全部まとめました!」
「ほっほっほ……胃薬が必要じゃな」
「なんでですか?」
「そこから説明せねばならんのか」
今日も牢屋は平和で、その代わりに、隊長の胃が死んだ。




