隊長の胃痛回(後日談)
隊長は、
その日も机に向かっていた。
朝だ。
平和なはずの時間帯だ。
胃薬を飲む前に、
一応、今日の書類を確認する
それが彼の習慣だった。
そして。
机の上に置かれた一冊のノートを見た瞬間、
隊長の胃が、
キュッ
と音を立てた気がした。
「……牢屋見習い記録帳・続編?」
嫌な予感しかしない。
隊長は深呼吸を一つして、
ページを開いた。
『本日、アキトさんが戻ってきました。
牢屋がいつもの音量に戻りました。』
(音量?)
『危険度:本人は低い
周囲は高い』
(評価基準とは)
『理由:よく分からないけど
近くの物がよく壊れる』
「……報告しろ」
隊長は呟いた。
紙を破りたい衝動を、
職務と理性で必死に抑える。
読み進める。
『再会したとき、
感情が少し先に出てしまい、
抱きついてしまいました。』
隊長は
無言で
机に額を打ち付けた。
コン。
「……後で注意だ」
さらに進む。
『牢屋は
うるさい
落ち着かない
でも安心する』
「感想文か……?」
胃が
じわじわと
自己主張を始める。
極めつけは、
最後のページだった。
『感情と仕事は
分けるべきです。
でも、
いないより
いる方が
いいと思いました。』
その下に、
小さく。
『※この一文は
提出前に
消した方がいいかもです』
消えていなかった。
隊長は、
ゆっくりとノートを閉じた。
そして、
椅子に深くもたれかかり、
天井を見上げる。
「……牢屋勤務は、
人を壊す職場なのか?」
胃が
はっきりと
痛い。
そこへ、
報告書を抱えた副官が顔を出した。
「隊長、
例の牢屋ですが」
「……聞かなくていい」
「え?」
「いや、聞くが……
心の準備をさせてくれ」
隊長は
引き出しを開け、
胃薬をもう一包、
静かに取り出した。
その頃、牢屋では。
「これ、提出してよかったかな?」
「絶対よくないな」
「でも正直に書きました!」
「それが一番危ないんだよ」
いつも通りの音量で、
いつも通りの地獄が
元気に稼働していた。
隊長の胃は、今日も最前線にいる。




