最強執事は暗殺者に狙われるお嬢様を守るために今日も奔走する。
エリュード公爵家の御息女エレナ・エリュード。この国で1000年に一度生まれるという美しい目を持っている。そのため、暗殺者に命を狙われることが多い。だから公爵家は彼女に最強の執事をつけた。元は執事も彼女を狙う暗殺者の一味だったが、今は執事として彼女の護衛に精を出している。
「ねえ、レイフ。今日は魔法学園に入学の日よ。はあ、今から学園に着くのが待ち遠しいわ」
「お嬢様、学園まであと1時間もあります。そう気を急がずにゆっくりお休みくださいませ」
「レイフの言う通りね。少し休ませてもらおうかしら」
そう告げると、お嬢様は目を瞑った。レイフと呼ばれた執事は窓の外に目を向ける。お屋敷を出てからずっと後ろをついてきている馬車。あの馬車は、エリュード公爵家のものではない。だとすると…。
レイフは、馬車の扉を少し開けて後ろの馬車に飛び移った。勿論、お嬢様のいる馬車の扉を閉めるのを忘れない。御者に見つからぬよう馬車の上に着地した。馬車の上から中に聞き耳を立てる。
「あれが、あのエリュード公爵家の馬車ですか?それにしては、やけに警備が手薄なような…」
「いや、あれに間違いない。もう少ししたら、前の馬車に乗り込んで、エレナ・エリュードを攫うぞ」
「わかりました」
どうやら、馬車を襲撃しようと企んでいるらしい。執事として、なんとしてでも止めなければならない。そうと決まれば、御者からだ。御者の被っているフードには狼のマークが描かれていて、この馬車に描かれているものと全く同じだ。御者もグルとみていいだろう。レイフは、御者に飛びかかり首を締める。御者が意識を失うと、首から手を離し、馬の手綱を握る。馬に暴れられてからでは、他の敵を仕留めることが難しくなってしまう。そうならないように、馬が気を荒立てないようにする必要があったのだ。馬の様子が落ち着いているのを確認すると、今度は馬車の扉を蹴破った。
「な、なんだお前は!?」
馬車内にいた男は慌てた様子でナイフを手に取った。様子を見る限り、魔法は使えないようだ。
「あなたたちに名乗る名はございません」
そう告げると、武器も持たず素手のまま馬車内にいた2人の男を次々と蹴散らし、意識を失わせた。
レイフは、両手をはたくと馬車を止めてからお嬢様のいる馬車まで戻った。
「レイフ、また暗殺者を返り討ちにしてきたの?」
眠い目を擦りながらお嬢様は問う。
「ええ、それが私に仕事ですから。お嬢様の言いつけ通り命は奪っていません」
「私のわがままを聞いてくれてありがとうね」
お嬢様がそう告げると会話は終わる。これがいつもの光景だ。レイフがお嬢様の元に付いてから、数年経っても変わらないいつもの光景。
「お嬢様、そろそろ学園が近づいて参りました。お降りの準備を始めてください」
「ええ、わかったわ」
そう言うと、お嬢様は荷物をまとめ始める。いや、まとめるほどの大荷物というわけでもないが。
本日からお嬢様の通う魔法学園はこの国の王都にある。近くには王宮もあり、街もよく栄えている。学ぶには絶好の場所である。お嬢様には、暗殺者のことなど考えずのんびり穏やかに過ごして欲しいものだ。
そんな物思いに耽っているに間にとうとう魔法学園に着いた。
レイフは馬車の扉を開けてお嬢様の手を引く。
「ありがとう」
お嬢様はレイフに向けて微笑んだ。
「やあ、エレナ。おはよう。入学式日和のいい日だね」
馬車から降りたお嬢様にすぐ声を掛けたのは、お嬢様の婚約者のカートリック・ユーロピア第一王子だ。彼はお嬢様のことを溺愛していて、昔から何かとお嬢様のことを気にかけている。このような素晴らしき殿方がお嬢様の婚約者ならば、お嬢様の将来は安泰だろうとつい口元が緩んでしまう。歩き出す御二方の後ろを私が着いて行く。無論、王子の護衛数人も共に。
「ここが講堂だよ。入学式、緊張すると思うけど深呼吸して落ち着いてね。じゃあ、楽しんできて!」
そう第一王子が告げたあと、お嬢様と別れた。第一王子は2年生でこの先までは着いていけないらしい。途中まででも着いてこられる素晴らしき御方…!やはり第一王子は素晴らしいな。いつ会っても感心するばかりだ。
「では、入りましょうか。お嬢様」
お嬢様は頷くとゆっくりとされど確かに講堂の中へ入っていった。無論、私も続く。
講堂の中に入って一番最初に目に入ったのは煌びやかな装飾ではなく、暗殺者の存在であった。学園の中にまで暗殺者が入り込んでしまっているのか。今日は外部からの人の出入りの多い入学式。仕方ないといえば仕方ないのだが…。警備に声を掛けてせっかくの入学を台無しにさせる訳にはいかない。お嬢様が今日の為に多くの準備をされてきたのだから。入学式の最中に誰にも気づかれないように排除しなくては…!
入学式が始まってから、お嬢様や周りの人々に気づかられないようにそっと席を立った。そして、暗殺者のいる2階席まで移動する。2階席までの移動は容易だ。1分もしない内に辿り着いた。問題はここからだ。暗殺者は参列者と同じように席に座っている。これでは、気絶させて運ぶまでの間に誰かに見られてしまう可能性が高い。いや、暗殺者は1番後ろの席に座っている。それなら、素早く首を締めて気絶させれば周りに体調不良だと思わせることができるのでは…!?
思いついてからの行動は早かった。素早く暗殺者を気絶させ、会場の外に運んだ。エリュード公爵家の者に連絡済みなので、後で回収に来るだろう。今のうちににお嬢様のところに戻らなければ。
お嬢様のところに戻ると、入学式はちょうど終了間際だった。どうやら誰にも見つからずに暗殺者の対処をすることができたようだ。ふぅ…と一息をつく。入学初日からこの様子では先が思いやられる。この魔法学園生活、一体どうなることやら。




