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第6話 東部の洗礼!

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・気象現象とは関係ありません。

※気象や魔法の描写は、作者独自の設定・解釈を含みます。

「海ーーーーーーっ!!!」


 目の前の懐かしさを覚える景色に、ミーシャは叫ばずにいられなかった。


 フェルも、声を弾ませている。


「すごーい、俺初めて見たよ!きれいだね!!」


「でしょ!?これから3年間、毎日海見て過ごせるなんて幸せ!」


「ミーシャは、島生まれだもんね!」


 都の魔法学院(アカデミー)観測科を卒業した新任観測士、ノア・マリスは、心の中でつぶやいた。


(あぁぁ……ついに来てしまいました、この二人と合流する日が)


 都から馬車で1週間─三人は、任地の東部沿岸地方へとやってきた。

 ごくごく平凡な成績で卒業したノアは18歳。対して、飛び級で卒業したフェルは16歳。ミーシャに至っては、まだ15歳だ。


(なんかすでにすごくテンションが高いですし……。わたし、全然ついていける気がしません……)


 キラキラ輝く海を前に、キャッキャとはしゃぐ二人を尻目に、ノアは思い直した。


(で、でも、二人とは部署が違いますし、わたしの上司の方は、落ち着いたマダムと伺っておりますし……)


 突然、ミーシャから声を掛けられて、ノアはビクッとした。


「ノア、あとで一緒に女子寮行こうよ。あたしたち、同室だって!」


「えっ……!!?」


 またノアは、心の中でつぶやいた。


(お母さん、わたし、社会人として、ちゃんとやっていけるでしょうか……)


 ノアは、人知れず肩を落とした。



 東部気象台・東部沿岸防護隊中央本部は、中央の灯台を挟んで隣り合う建物同士で、入口は共通だった。

 三人が大きな荷物を背負って、その扉を開けようとしたところ、ちょうど中から白衣を着た40代くらいの女性が出てきた。


「あんたたち、今日から着任する新人かい?」


 ぶっきらぼうに聞かれて、三人は声を揃えて返事をした。


「はいっ!」


「ノア・マリスは?」


 突然名前を呼ばれて、ノアは心臓を鷲掴みにされたように、ビクッとした。


「わ、わたしです……!」


「アンタは、こっち。着いてきな。あとの二人、入って左側に進みな」


 有無を言わせない雰囲気を感じ取って、そこでノアは二人と別れた。


 白衣の女性は、背筋を伸ばして、大股で廊下を進む。


「ここの観測士は、アンタを入れて5名。今日は一人が洋上要塞勤務、一人は非番だ」


(この人が、わたしの上司……かな?)


 ノアは、何も聞けないまま、後ろについて階段を昇る。


「入るよ!」


 3階まで上がると、中に声を掛けて、女性はドアを開けた。

 大きな部屋に円卓が一つ。正面は、海に面していた。


 ノアとは歳が近そうな先輩観測士の女性が座って、立体天気図を投影している。


「お疲れ様です!」


 先輩観測士が、挨拶をした。


「ほら!アンタも」


 女性に促されて、ノアは慌てた。


「お……お疲れ様ですっ」


 見様見真似で、頭を下げる。

 その時になって初めて、上司と思われる女性が気づいたようだ。


「あぁ、悪い。アタシが名乗ってなかったね。リア・ベルン。ここ、気象予報庁東部気象台の責任者だ。よろしくね」


「よ、よろしくお願いします!」


 ノアは、慌てて手を差し出した。


 白衣を渡されたノアは、都から背負ってきた大きな荷物を下ろした。上着を脱いでから、すぐさま白衣を羽織ると、筆記用具と観測士の魔道具・核石(かくせき)を持って、急いでリアの元に戻った。


 早速だけど、と前置きして、リアが鋭い口調で言う。


「核石、見せてみな」


 ノアは、手のひらを開いて、愛用の核石を見せる。核石は、観測士が立体天気図を投影する際の起点とする魔道具。あくまでイメージを膨らませるために使う道具で、それ自体が魔力を帯びるものではない。

 ノアの核石をヒョイッとつまみ上げて、リアは聞いた。


「これは……ガラス玉かい?」


「はい!とても使いやすくて、お気に入りで……って、えぇぇえーーー!!?」


 なんとリアがポイッと、ノアの核石を床に投げ捨てたのだ。ノアは凍りついた。


「これを使いな!」


 急に手のひらにすっぽり収まるぐらいの大きさの金属球を投げられて、ノアは前のめりに受け取った……つもりが、金属球は予想外に重く、ゴトンという音ともに、ノアの手から転げ落ちた。

 金属球に付いた鎖が、ジャラリと音を立てる。ノアは、慌てて拾った。黒光りする金属球の表面には、細かな彫刻が施されていた。


「重さがあるもんを身体に掛けてないと、あんなガラス玉じゃ、すぐに風ですっ飛ばされるよ!あと……」


 次の瞬間、ノアのみぞおちに、リアの掌底が入った。


「ドフッ……!!!」


 たまらず悶絶して、ノアの身体がくの字に曲がる。腕組みして、涙目のノアを見下ろして、リアは言った。


「沿岸防護隊と同じレベルにとは言わないけど、身体は鍛えな!船にも乗るし、嵐の中踏ん張らないといけないことは、いくらでもあるからね!」


 ポカーンとするノアを置いて、リアは足早に出口に向かう。


「アタシは、これから沿岸防護隊と会議だ!アンタは寮で荷解きしていいから。明日からは、いつでもどこでもどんな体勢でも、立体天気図投影できるように、先輩に鍛えてもらいな!」


 扉が閉まるのを待って、先輩観測士が床に投げられたノア愛用のガラスの核石を拾って、ノアの手のひらに握らせてくれた。


「リアさんは厳しい人だけど、頼りになる上司だから。一緒に頑張ろうね、ノアさん」


 ノアは、じわりと目尻ににじむものをこらえるので必死だった。


(落ち着いたマダムというよりは、肝の座ったご夫人……でしたね)


 ノアは、心の中でつぶやいた。



「ノア、行っちゃったね……」


 ノアを見送ったミーシャとフェルは、顔を見合わせた。


「俺たちは、入って左側って言ってたっけ?」


「うん、行ってみよ?」


 扉を開け、人気のない廊下を進み始めると、階段を降りてくる足音が響き、二人はドキリとする。


「フェル!来たのか!」


 階段から姿を見せたのは、たくましい体つきの青年。年の頃は、20歳くらいだろうか。肌は良く焼けて、白い歯が際立つ。

 パッとフェルの表情が明るくなる。


「アルマ!久しぶりー!!」


「おー!大きくなったな、フェル!」


 二人は軽いハグを交わす。


「ミーシャ、話したでしょ。俺の兄弟子のアルマ!」


 アルマは、爽やかな笑顔でミーシャに笑いかけた。


「君が金糸の賢者様のお弟子さんか!フェルから聞いてるよ。魔法学院(アカデミー)の頃から、仲良くしてくれてるんだってな」


 フェルが口を尖らせて、訂正を求める。


「アルマ、失礼だよ。ミーシャにはちゃんと『銀糸の雷花(らいか)』って称号があるんだから!」


「あ、あぁ、すまん。糸の一門の正統な後継者なんだったな。失礼した!」


 アルマは、顔の前でパンと手を合わせて、ミーシャに謝った。


「ミーシャでいいです!よろしくお願いします」


 三人が笑顔になったところで、アルマが言った。


「さぁ、隊のみんなのところに案内するぞ!みんな魔法学院(アカデミー)の首席と次席、しかも称号持ちの天才新人が来るって、興味津々なんだ」


 アルマに促され、ミーシャとフェルは階段を昇った。

 階段を昇った先で、アルマは扉をノックした。


「ジル隊長!新人を連れてきました」


 ドアの向こうで、どよめきの声が上がる。

 アルマが振り返ると、心なしか緊張した面持ちのフェルとは対照的に、ミーシャは余裕の表情だ。

 アルマに言われて、二人は荷物を置き、上着を脱いで、服を整える。


 扉を開けると、20名ほどの隊員の視線が一気にミーシャとフェルに集まった。


 フェルは、目の前の光景にちょっと面食らっていた。

 ミーシャとフェルが着てきた天気魔法師団の制服を着ている者は一人もいない。隊員服と呼ばれる動きやすい防水の作業着で、屈強な男たちが、車座で座っていた。


 その中から、スキンヘッドに口髭を蓄えた50代くらいの男が立ち上がる。威厳ある表情に、フェルは姿勢を正す。

 男は大股で近づいてくると、幾多の嵐と戦ってきたであろうゴツゴツの手で、フェルとミーシャの肩をガシッと掴んだ。


 途端に、男の表情がほころぶ。


「ようこそ、天気魔法師団東部沿岸防護隊へ!わしが隊長のジル・バートだ。君たちが来るのを、心待ちにしていたぞ!」


 周りの隊員たちからも、歓迎の声が上がる。

 フェルは、一気に脱力した。


 ジル隊長が、二人に自己紹介を促す。

 ミーシャにチラッと目配せして、フェルが先に口を開いた。


「『魔弾の射手(しゃしゅ)』フェル・クストです。本日より、よろしくお願いします!」


 ミーシャが続く。


「『銀糸の雷花(らいか)』ミーシャ・カグラです。ミーシャって呼んでください!」


 ミーシャらしい肩の力が抜けた挨拶に、思わず場の雰囲気が和やかになった。

 ジル隊長が、隊の紹介を始める。

 

「うちの隊は、君たちを入れて40名なんだが、全員が一堂に会することはなくてな。通常10名前後は、沖合80キロにある洋上要塞にいて、交代制で勤務してるんだ。今は、ヒース副隊長率いる10名が出向いている。天候次第で、陸上の沿岸北支部・南支部への応援出張もあるしな。追々皆と顔を合わせる機会を作ろう」


「ありがとうございます!」


 ジル隊長は笑顔で頷いたが、次の瞬間表情がスッと真剣になる。


「東部の主要任務は、台風対策。台風上陸は、何としても阻止せねばならん!3ヶ月後には、台風シーズンに突入する。それまでに君たちには、わが隊の戦力になってもらうぞ!」


「はいっ!!」


 フェルとミーシャの凛々しい声に、隊員たちの勇ましい声が同調した。

 ジル隊長は、表情を崩さず続ける。


「だが、これだけは覚えておいてほしい。わが隊の誇りは、決して殉職者を出さないこと。安全第一に勝る掟はない!」


 ここで、隊員の一人が挙手をして、隊長に申し出た。


「ジル隊長、そろそろいいっすか?」


「うむ!」


 隊員一同の目が光る。ジル隊長が一つ咳払いをして、説明を始めた。


「フェル、ミーシャ、東部沿岸防護隊には、伝統があってな。あくまで有志……そう、有志の会なのだが、今のところ全隊員が参加している活動があるのだ!」


「ジル隊長、回りくどいっす。ここは、百聞は一見にしかずっす!」


 突然、隊員たちが立ち上がり、横一列に整列すると、バッと上着を脱いで、上半身裸になった。

 フェルとミーシャが呆気にとられていると、独特の声出しが始まる。


「東部沿岸防護隊伝統〜!マッ☆スル☆隊!!!はーい!全員スマイル、マッスル!マッスル!」


「…………」


 一糸乱れぬ動きで、完璧なポーズを決めた隊員たちに、ジル隊長は惜しみない拍手を送っている。


「ジ……ジル隊長、これは……?」


 恐る恐る尋ねたフェルとポカーンとしているミーシャの肩を叩いて、ジル隊長は言った。


「フェル、ミーシャ、君たちは東部の任務を遂行するには、ちょっと身体が細すぎる。有志……あくまで有志の会ではあるが、マッスル隊で身体を鍛えてみないか?毎日朝練で汗をかくのは、至極爽快だぞ!」


「か……考えてみます……」


 隊員たちの熱烈な視線が二人に注がれているのに、フェルは気づかないふりをした。

第6話をお読みいただき、ありがとうございます。

とうとうミーシャ、フェル、ノアが東部沿岸地方で任務に就きました!

首都や魔法学院(アカデミー)との文化(?)の違いを感じていただけたのではないでしょうか?

今回はコメディパートがふんだんにあり、今までで一番書いていて楽しい回だったかもしれません(笑)

これから三人がどう成長していくのか?

ミーシャとフェルは、マッスル隊に加入するのか!?

どうぞお楽しみに♪

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― 新着の感想 ―
とりあえずノア、出てきてすぐなのにご愁傷様。 強く生きるんだよ… マッスル隊、何が怖いって、このすぐ後にミーシャが普通に脱ぎだして加わりそうな性格っていうね。 もしそうなったらフェル、全力で止めるよ…
東部、どんなものかと思ったら…脳筋しかいないじゃないですか!! マッスル隊にはフェルだけ入ればいいと思います!!!
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