第4話 天才弟子と魔法学院!
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・気象現象とは関係ありません。
※気象や魔法の描写は、作者独自の設定・解釈を含みます。
3ヶ月限定のジーンの家庭教師期間は、あっという間に残り半月になっていた。
暖炉のついた部屋の中で、講義は進む。
「いいか、ミーシャ。天気魔法の基本の型は、『魔力を飛ばす』+『魔法を発動させる』、これだけだ。単純だろ?」
「分かった!飛ばして、発動だね!」
「だがな、単純だけど、簡単ではない。なんでか分かるか?」
「全然わかんない!」
素直すぎるミーシャの回答に、ジーンは苦笑した。
「天気魔法使いが干渉するのは、何千メートル、何万メートルって高度なんだよ。その高さまで魔力を飛ばすには、減衰を防ぎ、効率的に魔力を圧縮しなきゃなんねぇ。ルクスの金の糸は、正に極限まで圧縮された魔力なんだ」
分かったような分からないような表情で、ミーシャは聞いている。
「圧縮して、飛ばすには、イメージが大事だ。俺たち糸の一門の場合、『糸を伸ばす』イメージだけど、他にも銃弾とか矢とか、別のイメージで、魔力を飛ばす天気魔法使いもいる。銃とか弓とか、イメージを強化するための魔道具を使う場合もあるぞ!」
ミーシャの瞳が輝き出したのを感じたジーンは、実際に見せてみることにした。
「いいか?例えば、手のひら全体から魔力放出した時は、こう……直径20cmくらいだな」
ジーンの手のひらから、高さ30cmくらい、ぼうっと光が立ち上る。
「これを細く撚っていくイメージ」
ジーンの手のひらの上で、光が収束を始める。どんどん直径は狭まり、手のひらの中心で、直径5mm程度の輝く光の線になった。
「ジーン先生、すごーい!!」
尊敬の眼差しで、ミーシャが見つめる。
「簡単に見えて、これはなかなか骨が折れるぞ。ミーシャみたいに、魔力量が多いほど、コントロールするのも難しい。今は、こういう技術があるってことを覚えておけばいい。修行は、ルクスと気長にやんな!」
さて、とジーンは、ミーシャの首根っこを掴む。
「今日から2週間、学科の追い込みするぞ!頑張れ、ミーシャ!」
「はいっ!ジーン先生!」
暖炉の薪が、ゆっくりと灰に変わっていく。
魔法学院受験の日が迫っていた。
翌年の春、魔法学院入学式の日、教員室はどこか浮ついた雰囲気だった。若い女性教師が、ベテラン教師に、話しかける。
「今年は、入試の学科満点の秀才がいたらしいですね!」
「あぁ、魔弾の一門のお弟子さんでしたかな。実技も高評価でしたな」
「えぇ、入学生代表挨拶のフェル・クスト。将来が楽しみな生徒ですね!そういえば、糸の一門からも、1名入学したとか……。最年少の12歳ながら、実技は抜群!でも、学科が危うかったそうですよ」
「糸の一門は、人材不足ですかな?かつては、金糸の賢者殿のような全方位完璧な天才を輩出していたのに……残念なことだ」
白いひげを撫でて、初老の教師はつぶやいた。
魔法学院の授業が始まって2週間。すでに、ミーシャは退屈していた。
苦手な学科の授業は、聞く分には理解できるけど、教科書を読んでもよく分からないし、実技の授業は、レベルが低い。
「師匠と修行したいなぁ……ジーン先生の授業受けたいなぁ」
昼休み、実技練習場の隅でパンをかじり終えたミーシャは、一人魔力の糸を撚る練習をしていた。
まだまだルクスやジーンのように、きれいな糸の形にはならない。それでも繰り返し繰り返し、魔力を集約するイメージを描く。
「君、すごいね!」
いきなり隣から声を掛けられて、ミーシャは驚いて振り向いた。
ミーシャの手元をじっと見ている栗色の髪の少年がいる。翡翠色の瞳は、興味津々に輝いていた。
「俺も、今魔力の圧縮の練習をしてるところなんだけど、ここまでの細さには、とてもできなくて……すごい才能だよ!」
「そ、そうかな……?」
「そうだよ!」
突然、少年に手を握られて、ミーシャの集中が解け、手のひらの魔力が霧散する。
「ありがと……師匠以外に、そんな風にほめられたの、初めてかも」
ミーシャの頬が、さっと赤くなる。
少年が、背中に掛けていた魔道具の銃を取り出した。
「俺の一門はさ、魔弾って言って、銃で魔力を飛ばすイメージなんだ。初速は、糸より速いんだけどね」
少年が空に銃を構えると、長い銃身の周りに少年の魔力が集約されていく。引き金を引くカチッという音と同時に、光の軌道が高速で上空へ放たれた。
「か……っっっこいい!!!」
ミーシャの興奮した様子に、少年は照れたように笑った。
「俺、フェル。友だちになってよ!」
「うん!」
ミーシャ12歳、フェル13歳。
のちに天気魔法師団、東部沿岸防護隊で、最強伝説を築く若き天才二人の出会いだった。
* * *
それから半年─あの雷競争騒動は起こったのだ。
「ミーシャ、ミーシャ!昨日、何があったの?話聞かせてよ!」
テンション低めで登校したミーシャに、親友のフェルがじゃれつく。
「その話、もう10回はした……」
「えー少しでいいからさ!積乱雲発生させたのミーシャでしょ?いつの間に10,000mも糸伸ばせるようになったの!?」
「あー……うん」
全く乗り気でないミーシャに、フェルは矢継ぎ早に尋ねる。
「積乱雲消すのは?どうしたの?」
「それは、師匠が……」
「えぇっ、金糸の賢者様がいらしてたの!?俺も会ってみたかったなぁ!一体何の御用で?」
いよいよミーシャの表情が曇る。
進級が危うくて、ルクスが呼び出されたことを耳打ちすると、フェルはスッと真剣な表情になった。
「ミーシャ、中間テストの答案見せて?」
ミーシャは引き出しの奥から、おずおずとテストの解答用紙を出した。ほとんど丸が付いていないその答案にざっと目を通し、フェルは首を傾げた。
「このレベルの理論、ミーシャは実技の中で、普通に使えてるよね?」
「その……文字にすると、分かんなくて。師匠が仕事の後、読み書きを教えてくれるって言うけど、忙しいのに申し訳なくて」
「俺が教えるよ!今日から、放課後一緒に勉強しよ?」
ミーシャの悩みは、フェルの言葉で、一瞬で晴れた。
「いいの……?」
「俺たち親友でしょ!ミーシャと一緒に進級したいし」
「フェル、大好き!」
「ミーシャは、大げさだなぁ」
二人は笑い合って、ぎゅっとハグをした。
その夜、ルクスは足早に職場を後にした。早く帰って、ミーシャの勉強を見てやらなければという一心で。
「あっ、師匠、おかえりなさい!」
家に着くと、笑顔でミーシャが出迎えてくれた。
「師匠、ごはんは?」
「軽くでいい。お前の勉強の時間を取りたいからな」
慌てて、ミーシャがその言葉を打ち消す。
「あっ、それならもう大丈夫!放課後、友だちに教えてもらうことになったから。師匠、毎日早く帰ってくるのは無理でしょう?」
最後の一言が、ルクスの胸に刺さる。12歳のミーシャに、気を遣わせている。師匠として、何一つ満足にしてやれない自分が、本当に情けない。
「学校で頑張れるか……?」
「うん!心配しないで。あたし、勉強も頑張って、師匠の自慢の弟子になるよ!!」
ミーシャが白い歯を見せて笑った。
その夜、ルクスはテーブルに突っ伏して、寝落ちしていた。
意識は黒い靄に呑まれ、あの悪夢がまた忍び寄ってくる。
夢の中のティルトが、幼いルクスに言った。
「僕と一緒に来ないか?この国の外で、災害に苦しんでる人たちがいる。天気魔法による救いが必要なんだ」
ルクスは、青ざめる。
「そんな……天気魔法を他国に持ち出すなんて、禁忌じゃないか!ティルト、そんな恐ろしいこと言わないで!」
ティルトの顔から、スッと表情が消える。
「そうか、君は来てくれると思ってた。今聞いたことは、全部忘れて。誰かに漏らすようなことがあれば……僕は、君を殺す」
遠ざかっていくティルトの背中。
追いかけようと思うのに、ルクスの身体はこわばって動かない。
「ティルト、やめて!行かないで─!」
「師匠、師匠!起きて!」
ミーシャに身体を揺すられて、ルクスはハッと目を覚ました。額には、わずかに冷や汗がにじんでいる。
「大丈夫?師匠、また怖い夢見たの?」
額を拭って、ルクスはため息をついた。
「あぁ、ちょっと疲れてるだけだ……」
「でも、うなされてた……」
ミーシャは、まだ心配そうだ。
ルクスがパジャマに着替えた頃、ミーシャが枕を持って、ルクスの部屋に顔を出した。
「師匠、今夜はあたしが一緒に寝てあげる。怖い夢、もう見ないよ!」
一緒に暮らし始めた頃から、いつもそうだ。ルクスの元気がないと、ミーシャは決まってルクスのベッドにもぐり込んでくるのだった。
ベッドの中で、ミーシャはすぐに寝息を立て始める。ルクスは、やさしくミーシャの頭を撫でると、そっと肩にふとんを掛け直した。
「あたたかいな、お前は」
ミーシャの身体をそっと包み込み、ルクスは穏やかな眠りに落ちた。
* * *
ミーシャ入学から3年後、魔法学院は、卒業式を迎えていた。大講堂の窓からは、うららかな春の光が降り注いでいる。
学長の声が、大講堂に響いた。
「総合科首席、『銀糸の雷花』ミーシャ・カグラ!」
「はいっ!」
「次席、『魔弾の射手』フェル・クスト!」
「はい!」
その日、教員室での教師たちのおしゃべりは、明るかった。生徒たちへの祝福と、これからの活躍を願う気持ちに満ちていた。会話は弾む。
「まさかあの問題児のミーシャが、首席で卒業なんて……3年前は考えられませんでしたね。しかも、師匠である金糸の賢者様と同じ、最年少15歳での卒業!卒業生代表挨拶が棒読みだったのには、笑ってしまいましたけど」
若い女性教師の言葉に、ミーシャとフェルをよく知る老教師が応じる。
「ミーシャくんとフェルくんは、日々切磋琢磨して学んできましたからなぁ。感慨深いものです」
そう言って、老教師は、柔和な笑顔で、白いひげを撫でた。
「二人とも、天気魔法師団の花形、東部沿岸防護隊に配属と、内示が出たようですね!」
「そのようだ。ケガなく任務に励むことを、願うばかりですよ。花形であると同時に、一番厳しい部隊ですからな」
「それにしても、父兄席におられた金糸の賢者様、称号どおりのまばゆい知的な紳士でしたねぇ。ひと目で分かりましたわ!」
女性教師の目は、完全にハート型になっている。老教師は苦笑して、話題を変えた。
「先生の担当の観測科も、優秀な生徒たちが巣立ったようですな」
「えぇ!天気魔法使いを支える観測士として、各地で活躍の報を聞くのが、今から楽しみですわ!」
教師たちは、顔を見合わせて微笑んだ。
「師匠!卒業式、来てくれてありがとう。お仕事、大丈夫だったの?」
校門前で待っていたルクスは、弟子の晴れ姿に、思わず甘い笑みがこぼれた。
「愛弟子の晴れの日だ。仕事など構うものか。3年間よく頑張ったな」
ルクスは、ぎゅっとミーシャを抱きしめた。
「帰りに街のカフェで、ケーキでも食べていくか?」
ルクスの問いに、ミーシャは即答した。
「あたし、エレノア夫人のパンケーキが食べたい!今日のごちそう、何かなぁ?ローストチキンとミートパイと……エレノア夫人のお料理なら、何でもいい!」
ミーシャの頭をポンと叩いて、ルクスは吹き出した。15歳になって、少し背は伸びたが、まだまだ子どもだ。
「家に帰ろう」
あたたかな春の日差しの中、ルクスとミーシャは、手を繋いで、校門を出た。
第4話をお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、ミーシャの学生時代のお話でした。
親友・フェルとの出会いとじゃれ合いは、書いていてとても楽しかったです。
東部沿岸防護隊で、二人がどんな活躍を見せるのか?乞うご期待です!
第5話は、ミーシャが東部へ旅立つ前のお話です。
お楽しみに♪




