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第18話 海辺の結婚式!

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・気象現象とは関係ありません。

※気象や魔法の描写は、作者独自の設定・解釈を含みます。

 ミーシャとルクスの約束の3年。

 海洋研究所の開設準備のため、都と東部を行き来していたルクスは、ミーシャと全く会えなかったわけではないが、自分が常にとんぼ返りな上、ミーシャは洋上要塞勤務で、東部沿岸防護隊の陸上拠点を留守にしていることも多く、すれ違いの日々だった。


 二人で暮らすための小さな家に、ミーシャを案内できたのは、ルクスが本格的に東部沿岸地方に居を移してから、半月後のことだった。

 海岸線より小高い坂の上にある、石造りの3部屋しかない小さな家は、都でルクスとミーシャが暮らした離れの家とよく似ていた。


 ミーシャの職場である東部沿岸防護隊中央拠点へは、徒歩3分。

 ルクスの職場の海洋研究所及びリリー・ローレン財団のオフィスは、自宅に併設だ。


 海洋研究所は、思うように国の予算が取れなかったこともあり、けっきょく完全に国から独立の民間経営となった。

 ─というのも、前大統領のリリー・ローレン女史が、ルクスの冗談半分の提案を受け、莫大な私財を投じてくれたのだ。

 ただし!と前大統領は、ルクスに条件をつけた。


「これは、ただの寄付ではなくてよ!きちんとワタクシの投じた原資を運用して、毎年利益を出しなさい!資金繰りに奔走していては、アナタの志の研究成果は挙げられなくてよ」


 商売人の経験もないルクスが資金運用など、自力では到底無理な話だ。ルクスは、東部沿岸地方で、元銀行員の夫妻を現地採用し、運用を任せることにしたのだった。

 海洋研究所は、とりあえず研究員を雇わず、ルクス一人だけでのスタートとなった。


「うわぁ、可愛いお家!」


 仕事帰りに、二人が住む予定の家を訪れたミーシャは、目を輝かせた。


「少し手狭だが、気に入ってくれたか?」


「うん!また師匠と暮らせるなんて、夢みたい!」


 ミーシャは満面の笑みだ。ルクスはこの3年の苦労が、全て報われた心地だった。

 ルクスは、ミーシャの手を取って向かい合った。


「3年間待たせたな。私の伴侶となって、生涯共に過ごしてくれるか……?」


「うん、師匠大好き!」


 ルクスの本気のプロポーズに、ミーシャがあまりに無邪気に抱きつくので、思わずルクスは笑ってしまった。

 ミーシャの黒髪を撫でながら、ルクスは言った。


「では、今日から『師匠』は禁止だ。私のことは、『ルクス』と呼んでほしい」


 ミーシャは少し照れたように、小さくルクスの耳元で呼んだ。


「……ルクス」


 二人は顔を見合わせる。

 まつ毛とまつ毛が触れ合う距離で、二人は小さく笑い合った。

 二人の唇が、自然と重なり合う。ミーシャの声が小さく漏れて、ルクスは思いのほか深いキスをしていたことに気づいた。


「す、すまない……少し焦りすぎた」


 身体を離そうとしたルクスを、ミーシャは許さない。ギュッとルクスの胸にくっついたまま、小さく言った。


「あたし、今日がどういう夜かぐらい、ちゃんと分かるよ……?」


「そう無自覚に煽らないでくれ。我慢できなくなる」


 潤んだ虹色の瞳に、ルクスはたじろぐ。


「3年待ったのは、あたしだけじゃなくて、ししょ……ルクスも同じでしょ?我慢してほしくない」


 ミーシャの真剣さに、ルクスは驚いていた。


「私のミーシャは、いつの間にこんなに大人になったんだろうな?」


 ミーシャの細い腰に手を回して、ルクスはもう一度深く長く口づける。


「本当にいいのか……?」


 ミーシャが小さく頷くと、ルクスはもう3年越しの思いを止められなかった。




 ミーシャとルクスの結婚式は、ミーシャの繁忙期にあたる東部沿岸地方の台風シーズンを避け、新緑の時期に行われた。


 東部沿岸防護隊の隊員たちは、全員が一堂に会することはなく、当日任務で参加できない者も多いため、結婚式前夜に都合がつくメンバーを集め、ささやかながら宴の場を設けることになった。


「ミーシャが日頃お世話になっています」


 東部沿岸防護隊行きつけのにぎやかな酒場で、律儀にルクスが頭を下げると、隊員たちは顔を見合わせた。


「ミーシャ、こちらが都で最強と名高い金糸の賢者様か……?」


「そう!あたしの旦那様!」


 ミーシャが得意げに、ルクスを紹介する。


「……思ったより青白くて、筋肉がない」


「こういうのがミーシャの好みだったとは……意外だな」


 言われ放題のルクスは、作り笑いを浮かべる。


「たしかに研究ばかりで、多少腕は鈍っていますが、積乱雲の一つや二つ、今すぐにでも起こせますが?」


 ミーシャが笑顔で、ルクスを援護する。


「みんな気をつけて!この人、あたしと同じくらい最強の天才だから!!」


 ミーシャの言葉に、隊員たちは震え上がった。


「ところで……明日、本当にビーチで結婚式をするんですか?」


 隊員の一人が尋ねる。

 

「そのつもりですが」


「でも、今夜は嵐ですよ?」


 訝しむ隊員に、ルクスは笑顔で答えた。


「何をおっしゃいます。我々は、天気魔法使いですよ?」


 ふと、ルクスが何か思いついて、ミーシャに耳打ちをすると、ミーシャの表情が、パッと明るくなった。

 二人は顔を見合わせて微笑んだ。



 結婚式当日、白砂のビーチには、ルクスとミーシャの姿があった。

 まだ昼前、ゲストが来るまでには時間がある。

 二人は、青空の下、目を閉じて、砂の上に寝転がっていた。砂は湿っていたが、冷たくはない。


「晴れたな」


「うん、気持ちいい天気だね!」


 昨夜の嵐は去って、穏やかな空が戻り、爽やかな風が吹いている。凪いだ波の音が耳に心地いい。


 ルクスは白シャツにベスト、ミーシャは薄布を重ねたシンプルな白のキャミソールドレスの軽装だ。

 ゲストにもドレスコードは設けていない。二人とも気取らない式にしたいと思っていた。


 まだ予定の30分以上前だというのに、もう最初のゲストが到着したようだ。


「おーい、会場はここかぁー?」


 ミーシャにとって懐かしい太い声の主は、バリー団長だった。


「ちょっとあなたたち!砂だらけになるじゃない!」


 エレノア夫人の慌てた声に、ルクスとミーシャは笑って起き上がった。


「ジーンさんとは、合流しなかったんですか?」


 ルクスの問いに、ジーンと折り合いの悪いエレノア夫人は、辛辣だ。


「知らないわよ!あの人は、相変わらず適当なんだから」


「ジーン先生、大丈夫かなぁ?今日の司会」


 ちょっと心配そうなミーシャに、ルクスは言う。


「事前打ち合わせをしたところで、あのジーンさんだからな。ミーシャの希望だから、お願いすることにしたが……」


「なんでそんな人選にしたんだか……」


 エレノア夫人が、不満げに漏らした。


 続いて現れたのは、ミーシャの懐かしい同僚だった。


「ミーシャ、おめでとう!」


「アルマ!来てくれてありがとう」


 ハグする二人の後ろに控えていたルクスにも、アルマは丁寧な挨拶をした。


「すまないな、ミーシャ。ノアも来たがってたんだが、出産が近くてな」


「大丈夫!産休前に、一度会ってるから。安産だといいね」


 アルマとノアは、2年前に結婚し、ノアの実家から近い東部沿岸防護隊北支部に常駐となっていた。

 ノアは観測士の後進育成の能力を買われ、時々中央拠点にも研修講師として来ていたが、2ヶ月前から産休に入っていたのだった。


 続々と東部沿岸防護隊の非番の隊員たちが姿を見せる。

 先輩隊員たちの後ろから、小走りに駆け寄ってきたのは、デンだった。


「ミーシャさん、これ!」


 白基調の花々を束ねた花冠が差し出される。


「マッスル隊のみんなで作りました!」


 筋骨隆々のマッスル隊隊員たちが、一本一本花を挿して、花冠を作った様を想像して、ミーシャは思わず吹き出した。


「ありがとう!うれしい」


 ミーシャはまぶしい笑顔で花冠を受け取り、自分の頭に飾った。


 ミーシャとデンのバディは、意外なことに今も続いていた。

 魔力量の差は歴然で、努力で埋まるものではなく、最初こそやりにくそうにしていたミーシャだったが、フェルにも劣らない軌道計算の速さと正確さ、作戦の的確な理解は、今やミーシャだけでなく、隊全体に頼られる存在だった。


 その後、ルクスが移住にあたり世話になった地元の招待客が続く。


 遅れて現れたジーンは、すでに少し飲んでいる様子で、意外な人物─前大統領、リリー・ローレン女史と一緒に現れた。

 ルクスが慌てて二人に駆け寄る。


「いやー、こちらのご婦人に一杯ごちそうになってな!」


 ジーンは上機嫌だ。


「こちらの紳士、アナタのお身内だっていうじゃない、ルクス!一杯ご一緒してきたところなのよ!」


 真紅のドレスのリリー・ローレン女史も、負けじとご機嫌だった。

 バリー団長とエレノア夫人は、ルクスとミーシャの傍らで、顔面蒼白になった。


 リリー女史の指示で、次々に最高級のシャンパンが運び込まれる。

 ルクスが丁重に感謝の意を伝えると、リリー女史は、得意げに言った。


「このくらい安いものよ!ワタクシ好みの美青年の恋が、3年越しで今日結実するのだもの!」


 リリー女史は、大げさにウィンクしてみせた。


「ルクス、ミーシャ、結婚おめでとーう!」


 ジーンの締まらない乾杯で、ルクスとミーシャの結婚式の幕は上がった。

 一同は嵐の去った後の青空に、シャンパンのグラスを掲げた。次々にグラスを合わせる音が軽快に響き、祝福の声がルクスとミーシャに降り注ぐ。

 ルクスが柔らかい表情で笑えば、ミーシャは朗らかな笑い声で、祝福に応えた。


 いの一番に最高級シャンパンを飲み干したジーンが、2杯目に口をつけていると、ルクスが何やら耳打ちしてきた。

 「本気かよ!」とでも言いたげな表情のジーンに、ルクスは自信ありげに微笑み返した。


 ルクスとミーシャが二人で、招待客の間を順々に回る様子を見ながら、ジーンは柄にもなく、感慨深い気持ちになっていた。


「あのチビのミーシャと、こじらせ天才少年のルクスがねぇ……」


 一緒に過ごした3ヶ月は、もう9年も前のこと。

 あの頃のミーシャの口癖を、ジーンは懐かしく思い出していた。


 日は高く昇り、空には薄い雲が流れている。ルクスの目配せを受けて、ジーンは招待客に声を掛けた。


「ご注目!新郎新婦から、ご列席の皆様にお礼のプレゼントがございます。ルクス、ミーシャ!」


 二人は頷いて、海へと向き直ると、高々と手を上げた。手首には、お揃いの細いバングルが光る。


「金の糸……」


 ルクスが静かに唱えると、金色の細い光が遥か上空へと伸びる。


(しょう)!」


 上空で雲に光が反射したかと思うと、薄雲は、上昇気流に乗って、さらに上へと押し上げられる。


「銀の糸……」


 今度は、ミーシャの呪文詠唱が始まる。

 上空に帯状にたなびく雲を、銀色の光の糸が端から撫でると、雲の中では氷の結晶の向きが整えられる。銀の糸の動きに合わせて、まるでカーテンが開くように、薄雲の上に横一線の虹が姿を現した。


 キラキラと輝く海面の遥か上、青空に浮かぶ薄雲と虹。


 幻想的な光景に、招待客からは歓声と拍手が上がった。

 ルクスとミーシャは、招待客に向き直り、手を取り合ってお辞儀をした。

 ジーンは、つぶやいた。


「環水平アーク……狙って出せるもんじゃないんだけどな。運も味方につけるなんて、相変わらず規格外だねぇ」


 天気魔法を習い始めたばかりのミーシャの口癖はこうだった。


「あたし、虹を出してみたいの!」


 ジーンが二人のほうに歩き出すより先に、ミーシャが白いドレスの裾を揺らして駆けてくる。


「ジーン先生、うまくいったよ!」


 教え子だった頃と変わらない笑顔でそう言うミーシャの頭を、ジーンは花冠の上からクシャッと撫でた。


「小さい頃からの夢が、ようやく叶ったな。おめでとう、ミーシャ」


 ジーンの祝福に、花冠をかぶり直して、まばゆい笑顔でミーシャが笑う。追いついたルクスが、ミーシャの肩を両手で包んだ。

 ルクス26歳、ミーシャ21歳の春─海辺の結婚式は、皆の笑顔で幕を閉じた。



 その夜、糸の一門の男たち─バリー団長、ジーン、ルクスは、浜辺で星空を見ながら、飲み直していた。


「ルクス、糸の一門はお前に譲る。東部(ここ)でミーシャと共に、弟子を育てていきなさい」


 突然のバリー団長の宣言に、ルクスは正直驚いた。


「バリー団長、まだ一線から退くには早くないですか?」


「早いものか。本当は天気魔法師団の仕事だって、すぐにも引退したいぐらいだ。エレノアを早く休ませてやりたい。称号を持つお前とミーシャが一緒になったんだ。後進に道を譲るのに、これ以上の機会はないだろう」


 ルクスは、あらためて後継者としての重責を感じずにはいられなかった。


「しかしまぁ、あのエリート志向のお前が、よく国立気象研究所を辞めて、東部に移住しようと思ったなぁ」


 ジーンに意外な顔をされて、ルクスは心外とばかりに言った。


「ジーンさんが言ったんでしょう。国の中枢にいなくても、都暮らしじゃなくても、幸せはあるって」


 ジーンが目を丸くする。


「え?俺、そんなこと言ったか?」


「言いましたよ。覚えてないんですか!?」


 バリー団長が豪快に笑い出す。

 

「ジーンにしちゃあ、まともなこと言うじゃねぇか!」


「まぁ、お前がミーシャに振られなかったのは、俺の名言のおかげだな!」


「覚えてないくせに、偉そうにしないでください!」


 男同士の夜が更けていく。

 ルクスの口から、ふとこれまで誰にも言っていなかった本音が漏れた。


「この地で……海に呑まれていく世界の謎の一端でも、解き明かせそうな気がするんです。ティルトが絶望したこの世界を救うための鍵が─」


「そうか……」


 バリー団長が、子どもにするように、ルクスの頭を撫でた。


 ジーンがルクスの肩を叩く。


「元気でやれよ。ミーシャを大事にな!」


「言われなくても」


「さぁ、行こう。女たちにどやされるぞ!」


 男たちは、グラスを空けると、砂浜を後にした。満天の星以外、男たちの会話を知る者はいない。

 浜辺には、さざ波の音が絶え間なく響いていた。



 祝いの夜が終わろうとしている。ルクスは、二人の小さな家に急いだ。


「ミーシャ!」


 扉を開けると、灯りを付けたまま、ミーシャはテーブルに突っ伏していた。一日ゲストのもてなしをして、疲れたのだろう。テーブルの上に白い花冠、床に広がるドレスの裾─結婚式の名残りに包まれて、ミーシャは眠っていた。


「待たせて悪かったな」


 ルクスは、ミーシャの頭に軽く口づけてから、そっと抱き上げて、ベッドへと運んだ。

 東部沿岸防護隊の厳しい任務で鍛えられているといっても、ミーシャの細い身体は、軽々運べる。

 ミーシャを寝かすと、ルクスもそっと隣にすべり込んだ。


「おやすみ、ミーシャ。よい夢を」


 ルクスがミーシャの手を握ると、お揃いのバングルがぶつかって、小さく音を立てた。

 ミーシャの穏やかな寝息を聞きながら、ルクスも幸せな眠りに落ちていった。

第18話をお読みいただき、ありがとうございます。

ルクスとミーシャの結婚式、いかがでしたか?

この物語を書き始めた当初から、虹を出す天気魔法は考えていたので、感慨深いです。

登場人物たちのその後が気になっていた方も多かったのではないでしょうか?

さて、物語はエピローグを残すのみとなりました!

ミーシャたちの物語の結末を、どうか最後まで見守っていただければうれしいです。

お楽しみに♪

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― 新着の感想 ―
師弟から夫婦に変わり、二人が幸せになれそうでよかったです。結婚式で虹の魔法とは、天気魔法にふさわしい画が想像できて素敵でした。
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