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第10話 史上最大の作戦!!

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・気象現象とは関係ありません。

※気象や魔法の描写は、作者独自の設定・解釈を含みます。

 ミーシャ・フェル・ノアが東部沿岸地方に着任して3年目。

 その夏の台風対応は、過酷を極めた。


 年々勢いを増す台風。

 司令室から海岸線を見渡すと、この国もいつか海に呑まれる運命なのではないか─そんな未来すら頭を過ぎる。

 悲観論を打ち消すように、東部沿岸防護隊、ジル隊長は首を振った。


 外からは、東部沿岸防護隊伝統、マッスル隊の活気ある朝練の声が聞こえている。

 若手が順調に育ち、戦力の底上げはできている。

 それでも、それを上回る自然の脅威を、感じずにはいられなかった。


 その日、ジル隊長は、都の天気魔法師団中央司令部から、応援隊15名が派遣されたとの速報を受け取った。

 こうした措置は、時々ある。

 気象予報庁の10日間予報を元に、大きな災害に繫がる危険性がある場合、中央司令部の判断で、先行で応援隊を派遣するのだ。


 東部沿岸防護隊の場合、都から馬で飛ばしても6日はかかるため、こちらから応援を要請していては、緊急の派遣はできない。

 そのため、無駄足覚悟で、予報を元に中央司令部が派遣を決めるしかなかった。


 今年は7月時点で、すでに三つの台風に対応。そのうち一つは規模も大きく、隊員たちの疲労が溜まり始めていた。

 しかし、休んでいる暇はなさそうだった。

 8日前後で、今度は二つの台風が同時に東部沿岸に接近する予報が出ているのだ。


 作戦会議室は、重苦しい空気に包まれていた。

 屈強な東部の天気魔法使いたちが、気象台のベテラン観測士、リアの投影する立体天気図を見ながら、一同難しい顔で考え込んでいる。


 リアの解説はこうだった。


「コイツは厄介だよ。同時に二つの台風が発生した場合、進路予測が非常に立てづらい。台風同士の距離によっては、お互いに干渉して、多少進路がズレるくらいで済む場合もあるけど、最悪の場合、強い方の台風が弱い方の台風を吸収して、より強力な台風に変化する可能性がある」


「せめて沿岸地方に上陸するか、影響を与えるかどうかの予測は立たないんですか?」


「何とも言えないね……」


 熟練観測士のリアでも、自信を持って断言できることはなかった。


「それなら、洋上要塞で早めに叩くしかないんじゃないか?」


 隊員から声が上がる。


「思い切って、戦力を洋上要塞に集中するのは?」


 ジル隊長は、腕組みして考え込んでいたが、一つ息を吐いて腹を決めた。


「都から応援隊が、向かっているとの知らせも来た。30名、洋上要塞に振り分ける!」


「もう少し人数は減らしても、ミーシャとフェルを洋上要塞に置いておけば……」


 一部隊員から上がった意見に、ジル隊長は明確にノーを突きつけた。


「ダメだ!通常2週間の洋上勤務のところ、あいつらはすでに3週間滞在して、台風対応に当たっている。天才天気魔法使いとて、人間だ。これ以上の無理はさせられない。今回は、ミーシャとフェルは陸上でのバックアップに回す!」



 2日後、洋上要塞からの船が沿岸に着いた。


「んー!久しぶりの陸上勤務!」


 フェルは船から下りると、大きく伸びをした。


「今回は長かったもんね!あたし、洋上要塞は、ごはんがおいしくないから苦手……」


 あとから下りてきたミーシャがつぶやく。


「そんなこと言って、台風相手に暴れられて、楽しそうだったじゃん!」


 フェルに茶化されると、そうかも、とミーシャは、白い歯を見せて笑った。

 二人が船を下りるが早いか、交代要員がバタバタと乗船準備をしている。


「アルマ、これ何事?」


 近くを通りがかった兄弟子に、フェルが声を掛けると、近く最大級の作戦が洋上要塞で予定されており、ほとんどの隊員が移動するとのことだった。


「ちなみに、俺ら三人とも陸上の留守番組な」


 アルマに言われて、ミーシャが口を尖らせた。


「えー!史上最大の作戦、カッコいいのにー!あたしも出たかった!」


「さっき、洋上要塞、ごはんマズイって言ってたばっかじゃん……」


 フェルが呆れてツッコんだ。



 翌日、めずらしく非番が被ったミーシャとノアは、一日一緒に過ごした。

 ノアが近くにケーキがおいしいカフェができたらしいと言うので、二人で行ってみることにした。


「うー、どれにするか迷います!」


 真剣にメニューを見つめるノアとは対照的に、ミーシャは即決だ。


「あたし、パンケーキとアイスティー!」


 けっきょくプリンにしたノアが、ミーシャに運ばれてきたパンケーキを見て、瞳を輝かせる。フルーツがふんだんに盛られたビジュアルは、女子ウケを狙っているに違いなかった。


「おいしそう!わたしも、次はパンケーキにします!」


 プリンを口に運びながら、すでに次回の予定まで決めているノアに対し、ミーシャはといえば、そこまで盛り上がっている感じはない。

 淡々とパンケーキを口に運びながら、たまにするちょっと遠くを見るような視線のミーシャに、ノアは心の中でつぶやいた。


(ミーシャ、相変わらずカッコいいし……きれいになりましたね)


 夜は女子寮で、ミーシャの手料理をお腹いっぱい食べ、夜遅くまでおしゃべりをして、二人の休日は更けていった。



 翌日朝練のあとミーシャとフェルが出勤すると、いつもは車座に座った屈強な隊員たちの熱気に包まれている作戦会議室は、数名しか残ったメンバーがおらず、ガランとしていた。


 そこに気象台から観測士がやって来た。

 ノアとその先輩観測士の2名だ。


 年長の隊員が促すと、先輩観測士が先日リアが全員にしたのと同じ説明を、参加していなかったミーシャやフェルにも分かるように、丁寧にしてくれた。


「二つあるっていうだけで、そんなに予測不能な動きをするものなんですね……」


 フェルは、いまいちピンと来ない表情だ。


「俺は、一度だけ似たようなケースに遭遇したけど、幸い弱い台風の方が消されて、大事には至らなかったな」


 アルマが、何年か前の自分の経験を語る。


「予測不能って言われちまうとなぁ……なるようにしかならないっていうか、やるしかないっていうか……」


「作戦は、直前に決めるしかないんじゃないか?」


 正副指揮官不在の影響もあってか、陸上組は、どこかで「洋上要塞で何とかなるだろう」といった楽観論に包まれていた。



 翌日、事態が急展開する。

 相互に作用し合う二つの台風が、まるでお互いを引き寄せるように、急加速を始めたのだ。

 相変わらず、進路予測は立たない。 立体天気図を見ながら、リアは唇を噛んだ。


 洋上要塞への到達が1日以上早まる見込みとなり、十分な作戦の検討ができないまま、部隊は各要塞に展開を始めた。

 ジル隊長は第二要塞の司令部、ヒース副隊長は第三要塞に隊員を率いて出る。第一・第四要塞にも経験豊富な隊員を揃えた。観測士は、正副隊長に一名ずつ帯同する。


 人員配置のタイミングは、ギリギリだった。各隊要塞に上陸して間もなく、海には白波が立ち、空は荒れ始めた。


「どこだ……どこに来る!?」


 百戦錬磨のジル隊長でさえ、焦りに駆られる。


 翌日、とうとう一つ目の台風が目前に姿を現し、第二要塞・第三要塞を暴風域に巻き込んだ。


 作戦実施中を示す要塞上の赤旗が、暴風雨でちぎれそうに揺れている。

 主力を置いた第二・第三要塞に台風がぶつかってくれたことに、離れて指揮を執る正副指揮官は、感謝すら感じていた。


 全員が死に物狂いで、台風の目周縁(アイウォール)を取り巻く雨と雲の帯「レインバンド」に冷却の魔法を撃ち込む。

 海上から台風に供給されるエネルギーを断つ常套作戦だ。

 上空500〜1,500mの戦場の至るところで、魔力が力強く弾けた。


 ジル隊長とリアは、食い入るように立体天気図を見守っていた。


「いいぞ!確実に効いてる!」


 ジル隊長は、手応えを感じていた。

 たしかに目の前の一つ目の台風は、少しずつ勢力を弱めつつあった。

 第三要塞のヒース副隊長と、帯同する観測士も、立体天気図でその事実を確認して頷いた。


 しかし、リアの表情はまだ険しい。

 二つ目の台風の位置が気になる。

 一つ目の台風が弱まるにつれ、吸い寄せられるように、不気味に近づいてきている。


 リアが気づいたときには、手遅れだった。


「このままだと、まずい……!」


 二つ目の台風が、まるで生き物のように、弱った一つ目の台風を食った。


 一つになった化け物台風は、勢力を強め、洋上要塞を通過した。

 リアは、背筋が凍った。


「これは……上陸するぞ!」


 考え得る最悪の想定で、台風は東部沿岸地方へと急速に接近していた。



 陸上拠点では、先輩観測士のデータに、隊員たちはどよめいた。


「中心気圧950hPa、最大風速45m/s、進行速度25km/h、すでに暴風域、陸上にかかり始めてます!」


 非常に強い勢力の台風と言わざるをえない。先輩観測士の立体天気図で見た、台風が別の台風を飲むという信じがたい現象。現実と受け止めないわけにいかなかった。すでに外では海が時化て、風雨が強まり始めているのだから。

 現場は、直ちに動き出した。


「今すぐ地域防災士に伝令を!沿岸住民に、避難指示出すぞ!」


 バタバタと伝令のために、1名隊員が出ていく。

 フェルは、立体天気図を凝視していた。


「台風の目中心までの直線距離は?」


 先輩観測士に、フェルが質問する。


「100kmです」


「なるほど……」


 フェルは唇を噛んだ。台風の目は、洋上要塞上空を通過したはずだ。自分とミーシャが洋上要塞にいれば、台風の目中心を内部から撃ち抜けただろう。

 だが、今言ったところで仕方ない。迷っている時間はない。フェルは、ミーシャを呼んだ。


「ミーシャ、距離100km先、高度8,000m、台風の目中心を、外から撃ち抜くよ。俺が魔弾で風穴を空けるから、ミーシャは糸を通して」


「任せて!」


「二人分の気圧上昇の魔法を同時に撃ち込んで、台風を崩壊させる!」


 フェルの作戦に、周りは一瞬言葉を失った。


「おいおい、距離100kmって……いくらお前らでも、無茶過ぎるだろう!」


 たしかに、無茶だ。暴風域も、さらにその先の乱気流の壁・台風の目周縁(アイウォール)も貫通させて、100kmを撃ち抜く。だが、選択肢がない。


「他に台風上陸を止める作戦、ありますか?」


 フェルに反論できる者は、いなかった。

 先輩隊員は、肩を落とす。


「ジル隊長かヒース副隊長がいれば、止めたんだろうけどな……。東部の掟、分かってるな?」


 フェルが頷く。


「安全第一!!!」


 作戦会議室で、全員の声が合わさった。



 司令役の先輩隊員と先輩観測士を残し、フェルとミーシャを含む7名は、風雨の強まる海岸線の防護壁の上に陣を張った。眼下では、防護壁に白波が叩きつけている。


「防護魔法陣、展開!」


 先輩隊員が、台風の正面に直径5m程の魔法陣を展開する。暴風雨の中で隊員が活動する際の必須装備だ。


「これで風雨は防げる。落ち着いて狙えよ!」


「はい!」


 フェルとミーシャたちの数メートル後方で、アルマも防護魔法陣を展開し、ノア他2名の隊員を守っている。


 二人は、荒れ狂う海を正面に立った。

 目の前にはそびえ立つ灰色の雲の渦。


「ミーシャ、角度は仰角4.6度。ほぼ横一閃で大丈夫。俺が先に撃つから、合わせてくれればいい」


「分かった!」


 フェルが銃を構える。

 ミーシャは、スッと右手を前に出した。


「行くよ、魔弾!」


「銀の糸!」


 ほぼ同時の呪文詠唱の直後、フェルの光の弾道とミーシャの光の糸が重なり合って、前方の雲の渦に突き刺さる。


 全員が二人の魔法発動の呪文を待つが、ミーシャとフェルの沈黙は続く。

 フェルが銃を下ろした。


「クソッ!風圧で軌道が曲がる!!」


「フェル、もう一度」


 フェルの顔に焦りが滲む。落胆している暇はない。二人が再び集中に入り、呪文詠唱が始まる。二人の重なり合う魔力が、再び厚く渦巻く雲の壁を破って進む。

 先輩隊員たちは、息を呑む。


「……今度は、やったか!?」


 遥か85km先、台風の目周縁(アイウォール)深部に、フェルの魔弾が突入した。その瞬間、凄まじい乱気流に魔力ごと弾かれ、フェルの身体が後方に吹き飛ばされた。


「フェル!」


 ミーシャが手を伸ばすが、間に合わない。

 フェルは、そのまま数メートル後方のアルマの防護魔法陣に、背中から突っ込んだ。

 先輩隊員が、間一髪ノアにぶつからないように、フェルの身体を受け止めた。


「大丈夫か!?」


 魔力量の消費が激しいのだろう。すでにフェルは、肩で息をしている。

 数回深呼吸をしてから、フェルが振り返った。


「マッスル隊!援護をお願いします!」


 先輩隊員たちの目の色が変わる。


「風圧で飛ばされないように、俺の身体を後方から支えてください!」


 二人のマッスル隊隊員は、雄叫びを上げた。


「日頃鍛えたこの筋肉!」


「今使わずして、いつ使う!!」


 あらためて、前方の防護魔法陣最前列に、ミーシャとフェル、フェルの後ろに縦列でマッスル隊隊員2名が入る。

 ミーシャは、集中しているとき独特の静かな口調だ。


「フェル、直線軌道にこだわらず、多少遠回りでも、中心まで力で押し切ろう」


「それじゃ、俺たち二人の軌道が合わない。同時に魔法発動ができないよ」


「大丈夫、あたしが合わせる。魔弾を糸で追尾する!」


 フェルは、愕然とした。


「やったことないだろ!?そんなこと」


 この状況で、賭けはできない。フェルは、頭ではそう思うのに、ミーシャの一切迷いのない表情から目が離せない。


「できる!フェルの魔力なら、あたしはどんな上空でも、嵐の中でも感じられるから」


 ミーシャからの絶対的信頼。フェルが、額の汗を拭う。


「俺の魔力量じゃ、次が最後のチャンスだよ……?」


「やろう、フェル。あたしたちは、東部の天気魔法使いだ!」


 ミーシャとフェルが、各々構える。

 そこから数秒、二人の呼吸が自然に合わさった。


「行くよ、ラスト!魔弾!!」


「銀の糸!!」


(さっきは、台風の目の周縁(アイウォール)まで到達した。あと一息!ここを突破すれば─!)


 魔弾の軌道が、乱気流に押され、蛇行する。銃を支える肩が耐えられるのか。嫌な汗が首を伝う。フェルの身体が、再び後方に圧される。だが、今度は後ろにマッスル隊の援護がある。


(怯むな!魔力の供給を止めるな!!限界まで振り絞れ!!)


 凄まじい圧力の中、意識を保つのさえ危うい。それでも、フェルは自分を鼓舞し続けた。


「フェル!抜けた!!」


 突然フッと肩が軽くなるのを感じて、フェルは魔弾の軌道が台風の目の中に入ったことに気づいた。


「行くよ!」


 ミーシャから、最後の呪文詠唱の合図だ。

 二人は同時に、魔法発動の呪文を唱えた。


(かい)!!!」

()!!!」


 その場にいた一同は、厚い雲の渦の中から漏れた虹色の光を、たしかに見た。

第10話をお読みいただき、ありがとうございます。

渾身の天気バトル、いかがでしたでしょうか?

こういう場面を描くと、作者が少年漫画で育ったのがバレますね(笑)

今回は、何よりミーシャとフェルのバディとしての成熟を描けて、感無量です。

緊迫した展開が続きましたが、次回は少しまったり回の予定です。

お楽しみに♪

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― 新着の感想 ―
はぁ、読んでて疲れちゃいました(笑) とても緊迫感のあるシーンで、体に力入れっぱなしで読んでました。 フェルの魔力をどんな状況でも感じられるミーシャ。濃い3年間を送ったんだなと言うのが想像できる一言で…
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