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春に結ぶ  作者: とりころーる
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2.始まった高校生活


結愛の叫びから逃れるように広場を飛び出した桜庭小春は、我を忘れて走り続けた。ぜいぜいと肩で息をしながら、ようやくたどり着いたのは、新しく通う高校の正門前だった。真新しい門柱を見上げ、今日からここで新しい生活が始まるのだと、改めて実感する。しかし、先ほどの出来事の衝撃で、胸はまだドキドキと高鳴っていた。


(い、いきなり結婚してくださいなんて…! な、なんなの、あの人…!)


顔の熱が引かないまま、小春は足早に校門をくぐった。人の波に紛れてしまえば、あの変な子に出くわすこともないだろうと、半ば現実逃避のように安堵する。


昇降口で自分の下駄箱を見つけ、真新しい上履きに履き替える。教室棟へと続く廊下は、新しいクラスメイトたちのざわめきで満ちていた。自分のクラスを確認し、教室の扉を開ける。


「よし、今日から頑張るぞ…!」


小春は小さく自分を励まし、指定の席を探した。窓際の一番後ろの席に目が留まり、そこに荷物を置く。これで一安心。さっきの出来事も、きっと気の迷いだったのだと、自分に言い聞かせるように息を吐いた。


その時、教室の扉が勢いよく開いた。


「はぁ、はぁ…! 間に合ったー!」


明るく、しかし少しだけ切羽詰まったような声が響き、クラス中の視線が扉の方に集まる。小春も釣られてそちらを見た。


そこに立っていたのは、腰まである長い髪をなびかせ、息を弾ませた向坂結愛だった。


結愛は教室を見渡し、その大きな瞳が、窓際の一番後ろの席で固まっている小春を捉えた。



「あ…!」



瞬間、結愛の顔に、獲物を見つけたかのような、悪戯っぽい満面の笑みが広がる。そして、まっすぐに小春に向かって指をさし、高らかに宣言した。


「いたっ! ふわふわショートの子! やっぱり運命だー!!」


小春の顔から、さっき引いたはずの血の気が一瞬で失せた。まさか、まさか、あの場所で出会った人が、よりによって同じクラスにいるなんて。心臓が今度こそ爆発しそうなほど跳ね上がり、小春はガタガタと震えながら、再び引きつった笑顔で固まってしまうのだった。


クラスメイトたちがざわめき始める中、結愛は迷うことなく小春の席の左隣に空いていた椅子を引っ張り出し、ドカッと座る。そして、小春に向き直り、きらきらと目を輝かせた。


「ねえねえ、やっぱり同じクラスだったね! 私、向坂結愛! あなたの名前は?」


結愛の前のめりな勢いに、小春は完全にフリーズしていた。顔は引きつったまま、か細い声がやっと絞り出される。


「さ…桜庭、小春…です…」


蚊の鳴くような声だったが、結愛の耳にはしっかりと届いたらしい。


「桜庭小春ちゃん! いい名前だね! 小春ちゃんって呼んでいい? 私のことは結愛でいいからね!」


一方的に友好関係を築こうとする結愛に、小春はただただ圧倒されるばかり。新しい高校生活は、波乱の幕開けとなったのだった。


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