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春に結ぶ  作者: とりころーる
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1.運命の出会い


桜が舞い散る、真新しい春の朝。今日から始まる高校生活に、桜庭小春は少しだけ胸を膨らませていた。新しい制服に身を包み、慣れない通学路を歩く。彼女のふわふわとしたショートヘアが、春風に優しく揺れる。


少し開けた広場に差し掛かった時だった。


「あらあら、もう…」


小さく困ったような声が聞こえ、小春は思わず足を止めた。見ると、少しばかり腰の曲がったおばあさんが、買い物袋をひっくり返してしまったらしく、中身が広場のあちこちに散らばっていた。パンや牛乳、卵のパックが無残にも割れている。


小春は迷うことなく駆け寄った。


「あの、大丈夫ですか? お手伝いします!」


そう言って、すぐにしゃがみ込み、散らばった品々を拾い始める。割れてしまった卵には「あら、ごめんね」と心の中で謝りながらも、丁寧にビニール袋にまとめた。おばあさんは恐縮しながらも、「ありがとう、本当に助かるわ」と、小春の小さく優しい背中を見つめた。


その様子を、少し離れた場所からじっと見つめている少女がいた。


向坂 結愛(こうさか ゆあ)。腰まであるブラウンのストレートヘアが朝日に輝き、その瞳は好奇心に満ちている。彼女もまた、今日から始まる高校生活に胸躍らせていた一人だ。偶然通りかかった広場で、小春がおばあさんを手伝う姿を目にした時、結愛の心臓は突然、激しい音を立てた。


(なに、あの可愛い子…!)


ふわふわの髪、小柄な体、そして困っている人を放っておけない優しさ。まるで、探していた宝物を見つけたかのように、結愛の視線は小春に釘付けになった。今まで「女の子を好きになる」なんて考えたこともなかったのに、理屈ではなく、ただ直感的に「この子だ」と、強烈な運命を感じたのだ。


小春がおばあさんと笑顔で話し、全てを拾い終えて立ち上がったその時、結愛はいても立ってもいられなくなった。


(え、ちょっと待って!あの子、どこの子!?)


まるで磁石に引き寄せられるかのように、結愛の足は自然と動き出す。小春が広場を後にしようとした瞬間、結愛はたまらず駆け寄った。


「あのっ!そこの、ふわふわショートの子!!」


思わず叫んでしまった声に、小春はびっくりして振り返る。そこには、朝日に輝く長い髪をなびかせ、息を切らした結愛が立っていた。きらきらと輝く大きな瞳が、まっすぐ小春を射抜く。


小春は、突然のことに「えっ?」と小さな声を上げた。すると結愛は、さらに一歩、二歩と小春との距離を詰め、その場に立ち尽くす小春の手を、躊躇なく両手で握りしめた。


「あの、私…っ!あなたに一目惚れしました!結婚してください!!」


突然の「結婚してください!」という愛の叫びに、小春の思考は完全に停止した。手のひらに伝わる結愛の体温と、力強いその言葉。小春の顔はみるみるうちに赤くなり、一瞬で耳の先まで熱を持つ。


(け、け、結婚!? い、いきなり!? しかも、私、女の子なのに…!?)


パニックに陥った小春の頭の中では、警報が鳴り響いていた。恋愛なんて縁がないと思っていたのに、まさか初対面で、しかも同性の女の子から、こんなに真っ直ぐな、いや、あまりにも突拍子もない告白(?)を受けるなんて。


小春は、顔を引きつらせながら、おずおずと手を引こうとする。しかし、結愛の握力は予想以上に強く、その目は真剣そのものだ。きらきらとした希望に満ちたその瞳に、小春は言葉を失い、ただただ引きつった笑顔で固まってしまい。


「ひぃっ! ご、ごめんなさーいっ!!」


訳が分からなくなり、完全にパニック状態に陥った小春は、結愛の手を振りほどくと、まるで弾かれたように走り出した。小柄な体からは想像もつかない速さで、あっという間に広場を駆け抜けていく。


「ちょ、待って! 名前! 名前だけでも教えてよーっ!!」


結愛は焦って追いかけるが、小春の足は思ったよりも速い。ふわふわの髪が風になびき、人込みの中へと消えていく。結愛の視界から、小春の背中が完全に消え去った時、彼女は大きく息を吸い込んだ。


「あーあ、逃げられちゃった…」


途方に暮れる結愛だが、その表情には全く諦めの色がない。


「でも、見つけたんだから。きっと、また会えるよね!」


満開の桜並木の下、結愛は決意を新たにする。この運命的な出会いを、絶対に偶然で終わらせるものか、と。


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