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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第95話 ノックは回数より間が大切

 コンコンコンッ。


「入るよ~?」


 ガチャッ。


 

 突然のノックと声掛け。それらとほぼ同時に部屋に入ってきたのはパジャマ姿の宇月さんだった。同時すぎて、最早このノックは意味を成していない。

 委員長と電話中で無警戒だった俺は、急な来客に驚きベッドの上で跳び上がる。



「うわっ」


「あれ~、ビックリしてる? お化けかと思った? ふふっ」



 彼女は何気なく俺の部屋を見渡しながら、そろそろと中に入ってきた。

 


「いや、違うけど……。俺まだノックの返事すらしてなかったよね」


「そかっ、次からノックはやめるね!」

 

「直すのそこじゃないよ……。ただびっくりするからもう少しゆっくり入ってきてね」

 

「えへ、分かったよ。ごめんごめん~。でも何かやましいことでもあった?」


「い、いや……?」



 俺は手に持っていたスマホを無意識に身体の後ろに隠した。

 気にならない程度の小さな動作だったはずだ。しかし、何かが研ぎ澄まされた夜の宇月さんはそれを見逃さない。



「あっ、今何か隠したよね?なになに?」


「いや別に……。てか、急に部屋に来るなんてどうしたの?何かあった?」


「んーとね、一緒に寝てあげようかなって思って!」


「……完全に今思い付いたみたいな顔じゃん」



 大きな声でとんでもない事を言い出した彼女に対し、俺は小さな声で返事をした。

 

 まだ身体の後ろにあるスマホは通話中だ。幸いスピーカーにしていなかったため委員長にはあまり聞こえていないだろうが、できるだけこちらの声が入るのは避けたい。

 それに迂闊に「宇月さん」なんて単語を出せば、こんな時間まで一緒にいることがバレてしまう。

 委員長にバレたらなんだというところではあるが、何となく恥ずかしいし、変に勘違いされそうだからやっぱりバレたくはない。



「で、ほんとはどうしたの?」


「えっとね。私、明日は家に帰ろうと思って」


「そっか。花さんが待ってるもんね」


「うん。お母さん、ずっと一人にさせるわけにはいかないから。ほんとはまだこっちに居たいなって気持ちもあるんだけどね……」



 彼女は切なそうな顔で手を後ろに組む。

 俺がその顔を眺めていると、目を合わせて「へへ」っと笑った。



「家出、初めてだったけど。楽しかったよっ」


「……そ、そう。それならよかった。……また俺が凛のドライヤー担当に戻るんだね」



 "楽しかった" なんて言葉は、家出には相応しくない。

 しかし俺の方も、宇月さんがいるこの日常に心が満たされていくのを感じていた。たった数日間の同居だったが、終わりが近づくと寂しさすら覚える。


 少ししんみりしたまま微笑む彼女を見ていると、自分と同じ気持ちなのだろうかと、らしくない情緒的な気持ちになった。



「凛は寂しがるかも」


「そうだったら嬉しいな。……松村くんは……?」


「お、俺……? 俺もまぁ、ちょっとは暇になるかも……」



 宇月さんはその言葉を聞くと、上がってきた自分の口角を隠すように片手を口に当てた。


 

「ふ、ふふっ。……じゃあまた来ちゃおっと」



 笑顔になる彼女に合わせ、俺も自然に笑みがこぼれる。



「宇月さん、どっちにしろバイトしに来てくれるんでしょ?」


「そ、そうだったっ。お別れだけど、お別れじゃないもんね」


「うん、そうだよ」


「でも泊まるのは最後かもしれないし……。もしまた家出したら、泊まらせてね」


「いいよ、家出じゃなくても。凛も喜ぶと思うから」


「えへへっ、そうだね。……いつかまた、お泊まりしに来るよ。凛ちゃんのためにも」


「うん、お願いするよ。凛のために」



 明日も一緒に過ごすことになるが、2人きりになる時間があるかは分からない。たぶん、その前にお別れだけを言いに来てくれたのだろう。

 彼女はそれ以上何も言わず、少し微笑んでこちらを見つめた後、そっとドアノブへ手を掛ける。

 


「……それじゃあ、戻るね。松村くん、おやすみ」


「うん。おやすみ」



 宇月さんは静かにドアを閉めて出ていった。

 一人になり、無機質な部屋にまた静寂が訪れる。

 


 お互いに「寂しい」なんて言葉はかけなかった。そんな事を言っていい立場じゃないから。

 でも、あの後を引くような笑顔と間が、言葉を交わさなくても分かり合えているような空気を生み出していて。俺は終わる寂しさより、同じ気持ちかもしれないという嬉しさの方が少しだけ勝っていた。

 自分はどうしようもない馬鹿になってしまったのだろう。

 


  

 座っていたベッドの上で再び横になる。

 目を瞑ると、置いてあったスマホの向こう側からギリギリ聞こえるぐらいの小さな声が聞こえてきた。


 

『ま、松村さん……』



 しまった。委員長と電話中だったんだ。完全に放ったらかしにしていた。

 慌ててスマホを手に取り、委員長の声が聞こえるように耳に当てる。


  

「も、もしもし? ごめん委員長。ちょっと部屋に来客があって……」


『い、いいんです。でも、そういうつもりではなかったんですが、所々少しだけ聞こえてしまいました。……松村さん、宇月さんと一緒に住んでるんですか?』


「え」


『あ、あまり内容までは聞こえなかったですけど、「宇月さん」と呼んでいたような気がして』



 最初は注意していたのに。

 そういえば途中から電話の事を忘れて普通に話していたっけ。

 


「そ、それは……。……た、たまたま宇月さんがうちに来てるだけだよ」


『こ、こんな時間にですかっ。あと、「一緒に寝る」みたいな事も聞こえてきましたよ……?』


「ちょ、寝てない寝てない! それだけはしてないから!ほんとに!」


『そうなんですか?……分かりました。恋愛マスターといえど、それだけはしていないって事、覚えておきますね』



 委員長はやはり言葉通り受け取るのだった。 

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