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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第94話 俺が君に教えられることは、もうない

「にしてもさ、松村くんって泣いたりすることあるんだね~。まぁこの写真、ギリギリ涙出ないように頑張って堪えてるみたいだけどっ」


 

 またアルバムに視線を戻した宇月さんが、嬉しそうに呟いた。


  

「まぁ、小さい頃だからね。……てかそれ、たしか凛が転んで怪我して、おんぶさせられた上で暴れまわるから、俺まで転んだんだよ。それで膝が血だらけになったって記憶なんだけど」


「そ、そうだっけ~?」



 凛を見ると、惚けたような顔ですぐに視線をそらされた。



「ちなみにオン眉パッツンになってる写真は、凛が自分で前髪切るの失敗して泣きわめくから、"俺も仲間だ"って同じ前髪にしてあげただけだし……」


「そ、そんなこともあったっけなぁ~?」


「ふふっ、凛ちゃん、昔はそんな感じだったんだぁ~。で、松村くんは今とあんまり変わんないんだね」


「俺も結構成長したと思うけど?」


「見た目はねっ」



 ……中身は成長していないってことね。


 

 宇月さんは満足したのかアルバムを返すと、凛に「お風呂入ろっか」と一声かけ、リビングに畳んで置いてあった自分の寝巻きを手に取る。

 そして、「今度前髪失敗したら松村くんにお揃いにしてもらお~」とか変な事を言いながら、凛と一緒に浴室の方へ消えて行った。




 寝る支度をして、自分の部屋に戻る。

 もちろん宇月さんは今日も凛の部屋で寝ることになっているので、俺は今からゴロゴロして寝るだけ。

 今日1日の中で、一人になれたのはなんだか久しぶりな気がする。


 ふぅと息をついてベッドの上に寝転ぶ。

 しばらくウトウトしていると、突然持っていたスマホのバイブが鳴った。電話の着信だ。

 発信元は委員長。彼女が俺に電話をかけてくるなんて実に珍しい。というか、連絡先を交換してから初めての事だ。

 


「もしもし?」


『あっ、ま、松村さん。遅い時間にすみません』


「ううん、大丈夫。何かあったの?」


『あのっ、実は相談があって……。メッセージだと伝わりづらいかと思って、電話しました……』


「いいよ、ちょうど暇になったところだったし。相談事って、誠一郎のこと?」


『えっ……! そ、そうです。どうして分かるんですか……?』



 電話越しに純粋な驚きの声が聞こえてきた。

 宇月さんや天羽さんじゃなくて俺に相談してくる時点で、それぐらいしか思い付かないのだが……。



「どうしてって……恋愛マスターだからだよ」


『そ、そうだったんですか……!』



 さすが委員長。俺の冗談を少しも疑っていない。

 恋愛マスターを何だと思ってるのか知らないけど……。

  


「……で、相談って告白の件?」


『そうです……! 今度、お盆休みに島に行く事になっていると思うのですが、その時に結論を出したいんです。いつまでもこのままの関係にしておくわけにはいかないので……』


「たしか、委員長が自分に自信を持てたように見えたら、誠一郎からまた告白することになってたんだよね?」


『はい……。でも私、それじゃいけないと思ったんです。大切な結論まで、また誠一郎君一人に背負わせてしまっているって気付いて……。だから今度は、私から告白……しようと思います』



 ……そうきたかっ!

 俺から見れば、この告白の成功率ほぼ100%だ。"いつでもいけるよ"と背中を押したいところだが、そう簡単な話でもないのだろう。



「すごくいいと思うよ」


『ほ、ほんとですかっ……。私、自分に自信を持てて、誠一郎君にふさわしい人間になれるものさしを探していたんです。でも、自分から告白できれば……告白できるぐらいになれれば……それ自体が自信と勇気を持てたという事。……つまり、成長できたと言えるのではないかと思ったんです』

 

「たしかにそれは言えてるね。そこまでできたら、自分の殻を破れたんだって委員長自身が納得できるもんね。それに急に告白なんてされたら、きっと誠一郎も嬉しいし、腰を抜かすぐらい驚くんじゃないかな」


『そうなれば嬉しいですっ』



 電話越しに聞こえる委員長の明朗な声。

 それは体育館の外から誠一郎を眺めていたあの時より、彼女がさらに一皮剥けた事を裏付けているかのようだった。



『……それで、松村さんに1つお願いがあって……』


「ん?お願い?」


『はい。島で過ごす時、私と誠一郎君を2人きりにするタイミングを作っていただけないでしょうか……?』



 なるほど、その時に告白したいということか。

 しかし、わざわざ皆がいる島で告白する理由があるのだろうか。2人きりで遊んでその時に、みたいな方がいいような……。



「それは全然構わないんだけど、デートした時とかじゃなくていいの? 俺たちがいると落ち着かない気もするけど」


『……だ、だってその……。2人でお出掛けとか、まだ恥ずかしくて……』



 顔を見ていないのに、委員長が頬を赤らめて照れている情景が簡単に浮かぶ。完全に恋する乙女のリアクションだ。

 ……数日前まで自分も同じような境遇だったかもしれないが、宇月さんと水族館に行った自分は少しだけ先輩になった気分だ。 

 取るに足らない優越感を感じていると、委員長が申し訳なさそうに言葉を加えた。



『や、やっぱり、島で告白するのはやめた方がいいでしょうか……?』


「ご、ごめん。全然そんなことないよ。大丈夫、俺も協力するから。2人になれるよう、全力でサポートさせていただきます」


『あ、ありがとうございますっ!……一応、承知の事とは思うのですが、この相談の事は誠一郎君には黙っていていただけますか……?……は、恥ずかしいですし……』


「もちろん分かってるよ、任せておいて。……じゃあ当日までに、何かできることないか考えておくよ」


『ありがとうございます!』



 こうして俺はまた島での役割を担うのだった。

 バイトや探し物、委員長の告白まで全て成功して、皆笑顔で帰られるといいな。

 ……いや、ちょっとフラグっぽいから考えるのはこの辺にしておこう……。 


  

「……あ、ていうか委員長ってさ、誠一郎の事、名前呼びだったんだね」


『え?元は苗字呼びでしたので。最近そうなっただけですよ?』


「そ、そうだったんだ。……へぇ~、いいねっ」



 俺はさっき一瞬だけ感じていた小さな優越感を、頭の中ですぐに投げ捨てた。そして言葉にはしないが、こう思う。 

 ……委員長、君が本当の恋愛マスターの素質を持っているのかもしれない……と。

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