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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第91話 ハンカチを2枚持つのが一流

「お母さん、松村くんに変なこと言わないでよ……?」


「大丈夫よ、せっかく明澄が初めて男の子を連れてきたんだもん。とったりしないから、安心して?」


「も、もう……! 友達だって……!」



 宇月さんは立ち上がると、念を押すように言い返した。そしてお母さんの方をジットリ睨みながら、渋々リビングから出ていった。


 

 ……ついに宇月さんのお母さんと2人きり。本番はここからだ。

 今から毒のある言葉で、小言や意地悪を言われてしまうのだろうか。

 正面から向けられ続ける優しそうな笑顔が、俺の肩をガチガチに固める。


 しかし、最初に投げ掛けられた質問は、身構えていたものとは全く違う内容だった。



  

「……蒼汰君、明澄は本当に迷惑かけてないかしら?」


「え……? 迷惑なんて、全然です。本当に助かってます」 


「ほんと?よかったわ……。あの子、好奇心旺盛だから、周りの人も巻き込んじゃう事が多いと思うの。それを良く思わない人も、中にはいると思うから……」


「そんな……。少なくとも自分の周りは、そう思ってる人はいないです」



 この言いぶり……宇月さんは過去に辛い目にでも合ったのだろうか。

 好奇心旺盛で周りを巻き込んでいくのは、彼女の一番良いところだ。でもそんな長所が疎まれる様な事があって、お母さんは今でも心配している……という事なのかもしれない。

 真剣な表情のお母さんの目を見て、こちらも一歩踏み出す。



「あの……。もしかして宇月さん、過去に何か酷い事言われたりしたんですか?」


「え?ううん、全然?」



 ……違ったようだ。



「ただ蒼汰君が明澄の事どう思ってるのか、気になっただけよ♪ まぁ一晩泊めてくれたんだし、そういうのは杞憂だったわね♪」


「そ、そうでしたか……」



 こ、この人は……自分の親と近しい何かを感じる。



「……あっ、話はそれちゃったけど、蒼汰君からも話があるのよね?」


「そうなんです。……実は宇月さんから、島にアルバイトに行くのを止められたって話を聞いて。その許可をいただきたくて」


「……そう、そうだったのね」



 もの寂しそうな表情をされ、2人だけの静かな空間に緊張感が走る。

 張り詰めた空気の中、落ち着かずに自分の拳を握っていると、彼女がまた口を開いた。


 

「ごめんなさいね。……蒼汰君にも、迷惑かけちゃったわよね」


「いや、そういうわけでは……」


「明澄に聞いてるかもしれないけど、あの子の父親……私の夫は既に亡くなっていてね」


 

 宇月さんのお母さんは、少しトーンを落として話を続けた。

 ずっと微笑んでいたその柔らかな表情の奥に、悲しみの片影が見える。

 


「2人が行こうとしてる島はね、夫が命を落とした正にその場所なの。……だから私にとっては、まだ辛い場所で。島に行くって明澄に言われた時、どうしてもすぐにいい返事ができなかったわ。……ごめんなさいね」


「そうだったんですか……」



 ……そんな理由があったのなら、お母さんが許可を出せないのもよく分かる。わざわざ悲しい記憶の残る場所に行って、辛い事を思い出す必要なんてないのだから。



「でも、明澄が家を出ていってから1日よく考えたわ。明澄は私とは違うのよ。あの子にとっては、あの島が父親と過ごした最後の場所。辛いお別れにはなったかもしれないけど、きっと最後の思い出なのよね。……私がちゃんと前を向けていないばっかりに、あの子にまで窮屈な思いをさせて。こんなの親として失格よね」


「……いえ、そんなことはないと思います。同じような状況なら誰だって心配します。宇月さんが辛い想いをするんじゃないかと思うと、僕も簡単に賛成はできないですし……」


「……明澄の事、心配してくれるのね。ありがとう。……あの子、いつも明るいでしょ?家でもずっとそうなのよ。だから、反抗されちゃったのも初めてでね。家出していった時は私もびっくりしちゃった」



 全くその通りだ。

 宇月さんは突発的な行動も多いけど、あまり本気で怒ったり歯向かったりしないイメージだった。

 最低限に相手の事は考えて、それでも自分のやりたい事はやる。そのバランス感覚が優れていて、正面から誰かとぶつかる事なんてないものなんだと。

 だから、今回の事は俺も少しだけ意外に感じていた。



「でも、それだけ本気で行きたいと思ってるって事よね」


「はい。宇月さんはずっと行きたかった島だったから、本当に楽しみにしてます。島でやりたい事もあるみたいですし。……色んな想いがあるかもしれないですが、僕は、できれば彼女の望みを叶えてあげたいです」

 

「そうよね……。……私もいい加減、あの子のように前を向かないといけないわ」



 彼女は自分に言い聞かせるようにそう言うと、再び優しい微笑みを向けてきた。

 


「心配ばかりしていても仕方ないわよね。……それに、今回は蒼汰君も付いてきてくれるみたいだしっ?」



 俺は大切な家族を失った悲しみなんてまだ分からない。宇月さんが島でどういう気持ちになるのか、想像すらできない。

 でも、彼女に何かあった時に傍にいてあげる事ぐらいはできる。

 

 どこか吹っ切れたようなお母さんに対し、思ったままの言葉を返した。



「宇月さんは結構しっかりしてますから。きっと1人でも大丈夫です。……でも、もし涙を流すようなことがあれば、僕がハンカチを貸します。立ち上がれなくなったなら、僕が肩を貸します」


「うふふ。明澄はいいボーイ……お友達をもったわね」


「いえ……。宇月さんは肩車がいいって言いそうですから。まだまだです」 


「たしかにっ、それは想像できちゃうわ。……蒼汰君、明澄の事、よろしく頼むわね」


「はい。……ということは、島に行くの許可してもらえるんですか?」


「ええ、許可するわ。だけど、蒼汰君が一緒に行くこと。これが条件だからね?ふふっ」


「……あ、ありがとうございますっ」



 元からそのつもりでしかなかったが、無事に許可が出てよかった。


 しかし、まだ気になる点が1つ残っている。

 


「……あ。許可をもらえたのは嬉しいんですが、男の子と泊まるのがダメなんじゃないんですか?」 


「あぁ、それはね、突然の事でOKが出せなくて、咄嗟に適当な嘘を言っただけよ? もちろん男の子ばかりだと心配もあるけど……今回は蒼汰君もいるし、そこは心配してないわ♪」


「は、はぁ。よかったです」



 ……俺も男の子なのですが。

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