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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第87話 寝巻きこそ真の個性だったりする

 凛と宇月さんの次、俺がお風呂からあがると、2人はリビングでテレビを観ていた。


 

「あっ、松村くん。今テレビで心理テストやってたんだけどさ、同じ問題出すから答えてみて?」


 

 自分の家から持ってきたのか、うちでは見たことないルームウェアを着た宇月さんが声をかけてくる。

 Tシャツのようにラフな装いでもなく、かといってモコモコのガーリーなパジャマでもない。シルクっぽい素材でできた、寝心地が良さそうなやつだ。

 


「心理テスト?わかった、いいよ」


「じゃあいくね。『あなたが公園にいくと、小さな子供がブランコに乗っていました。その子はなんだか元気がないようです。話を聞いてあげることにしたあなたは、その子にどう接してあげましたか?』」



 テレビでやっていた内容をメモをしておいたのか、宇月さんはスマホの画面を見ながら続ける。

 


「選択肢はないから自由に答えてね。答えはちゃんとメモしてあるよ」


「んー。じゃあ俺だったらそうだね。ブランコを押してあげる……かな」


 

 それを聞いた宇月さんと凛は、ぷふっと吹き出すように笑った。


 

「なるほどねぇ~。お兄、そうだったんだ」


「え、なに?答えは?」


「えっとね、答えは、"あなたが弱っているときにしてほしい事"だよ。子供は自分が弱っている時の生き写しなんだってさ。……だから松村くんが弱ってたら、私がブランコを押してあげるねっ。ふふっ」


 

 ……それ、当たってるのか?

 そもそも弱ってるときにブランコなんて乗らない気がする。


  

「そんなセンチメンタル系の男子じゃないんだけどなぁ。宇月さんはどういう答えにしたの?」


「私は、"面白いダジャレを言って笑わせる"にしたんだ~」


「あははっ、宇月さんのも大概じゃん。そんな慰め方する人いるかな?」


「私を笑わせられる高度なダジャレじゃないとダメだからね~っ。そんじょそこらにはいないよきっと!」


 

 そう言って何故か自慢気な顔をする彼女。

 家出してるのにこれだから、あまり落ち込んだりするイメージなんてないな。


 

「じゃあダジャレの勉強しとくよ。……凛はなんて答えた?」


「凛ちゃんはね~、頭を……」


「ああ、明澄ちゃん!! 私のはいいの! なんかリアルで恥ずかしいし言わないで!!」


  

 珍しく取り乱した凛が宇月さんの言葉を遮る。

 そして特に追求もしていないのにムッとこちらを睨むので、この件をそれ以上掘り下げないようにした。


 睨んでくる凛を見ていて、そのサラリと下ろした髪の毛が目に入る。

 


「……あ。宇月さん、凛のドライヤーやってくれたんだね。ありがと」


「いえいえ~。でもいつも松村くんがやってあげてるんだって? 今度は私の髪をお願いしちゃおうかな~っ」


  

 そう言って、彼女は既に乾いている自分の髪を両手で優しく撫でた。


 

「じゃあ俺のは誰がしてくれるんだろう?」


「……それは、風の精霊さんかな?」


「……自然乾燥ってことね」



 

 こうして寝間着姿の宇月さんがリビングでくつろいでいると、うちがうちじゃないみたいだ。いつも学校でしか会わないクラスメイトが、リラックスした格好で自分の家にいる。しかも夜。この日常感が、逆にすごく非日常的に感じられる。


 ソファは2人が占領してしまっているため、風呂上がりでひと息つきたかった俺はダイニングの椅子に腰を掛けた。



「そういや宇月さん、家出したんならお母さん心配してるんじゃないの?連絡しなくて大丈夫?」


「大丈夫だよ。キャリー持っていくの見てたし、友達の家に泊まりに行くんだって分かってると思うから」


「そっか。心配かけてないならいいんだけど」


「お母さんからは連絡きてないし、心配しないで。まぁ連絡きても、島に行くの認めてくれない限り帰らないけどね~っ」


 落ち着いているようではあるが、こう拗ねている宇月さんは初めてみた。ネックレスを探したいと言っていたし、それほど島に行きたかったのだろう。  

 なおさらネックレスの詳細が気になってしまうが、それで嬉しい答えが返ってくるわけがない。聞いてもどうしようもないのに気になってしまうのは、無意識に彼女の事をもっと知りたいと思ってしまっているのだろうか……。


 

 そこから3人でダラダラと話していたら、夜も更けてもう23時前。1日歩いたせいで既に眠気が襲ってきた俺は、欠伸をしながら思い出す。

 

「あ、宇月さんの布団用意してなかった。今から取ってくるけど、リビングに敷いていい?」


「え? お兄、それ本気で言ってる?」


 

 宇月さんに確認を取ったつもりが、横から凛が口を出してくる。


 

「今日はお泊まり会なんだよ? ゲストの明澄ちゃんをリビングで寝させるとか話にならないよ~。寝ぼけるのは顔だけにしてよね。ねぇ明澄ちゃん、明澄ちゃんからもお兄に言ってやって~」


 それに乗っかる形で、宇月さんも全く構えていなかった石を慌てて投げてくる。

 

「……そ、そうだよ松村くんっ。友達の家でお泊まり……それは高校生たちの夢・憧れ・悲願なんだよ。そんな特別な夜をこれで終わらせようとか、へそまがりの青春キラーなんだよ。男子高校生の看板下ろした方がいいんだよ」

  

「なんか急に振られた割に当たり強くない? ってか、それなら宇月さんどこで寝るの?」


 

 誰かと居て気を遣うよりも、一人で寝た方が気楽だろうと思ってリビングを選んだのに。

 そこまで言われてしまっては凛の部屋に布団を運ぶしかないか……。


 

「どこで寝るかって、そりゃあ、お兄の部屋か私の部屋でしょ~。明澄ちゃんどうするー?」


「え、ええっ」


 

 唐突に今夜の運命を委ねられた宇月さんは、俺と凛の顔を目だけでキョロキョロと往復させる。


  

「凛、それは俺の部屋を選択肢にあげる必要ないでしょ」


「なんで~? だって、リビングは一人で楽かもしれないけど、女の子一人で何かあったとき危ないでしょ? それで、私の部屋は私が何聞いてくるか分かんないから危ないでしょ? ……てことは、この中だとお兄の部屋が一番安全なんだよ~」


「たしかにそれはあるね……」


 

 宇月さんも納得してしまっているが、年頃の男子としてそれはどうなんだ?

 安全ではないと言われてしまえば言い返すだろうが、一番安全だと言われてもどこか納得がいかない。ただ信用してくれているだけなのか、はたまた男として見られていないのか……。

 何と反論しても消化不良になる未来しか見えなかったが、それでも黙っていられなかった俺は口を開いた。



「俺の部屋も危ないでしょ、いろいろと」


「いろいろって?」


「男の部屋なんだから……」


「あ、もしかして松村くんが私に何かしちゃうの?ふふっ」


「そ、そうじゃなくてっ。島でも泊まる予定なんだし、女の子なんだから少しぐらい気を付けてってこと!」


「心配してくれるんだ?」


「いや、少しは警戒心持たないと、何かあっても知らないからね?」


「別に私、いつもそうなわけじゃないもんっ」



 そう言って顔を逸らした彼女の表情は、口を尖らせつつも少しだけ綻んでいる。



「じゃあ、松村くんが襲ってくるらしいから、凛ちゃんと一緒に寝ることにするね~っ!」


「やったぁ!お話ししすぎて、今日は寝られないかも~!」 


 


 その日、女子2人のお泊まり会は遅くまで続いたらしい。

 朝目覚めた俺は、宇月さんから夜中に意味もないスタンプが送られてきていた事で、その事実を知る事になった。

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