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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第83羽 人間って歩くの早いね

「お兄さん、いい質問ですね~。ペンギンさんは目や鳴き声で仲間を見分けています。なので鼻は良くないのかな……と思いきや、実は嗅覚も発達しているので、強烈な匂いが苦手という話もあります。私たちも試したことはないですが、匂いでご飯の場所を当てるのとかも面白いかもしれないですねっ」

 

 それを聞いた俺は、一縷の望みにかけてお姉さんに次の質問を投げてみた。


「じゃあ、ハンカチの匂いで持ち主を探す事ってできますかね?」


「いやぁ、それは訓練していないのでできないと思いますね。……でも面白そうなのでやってみますか?」


 お姉さんがウフフと笑ってくれたので、俺は宇月さんの形見の黄色いハンカチを渡す。

 

 しかしエサと間違えて食べないようにとの事で、さすがにペンギンに匂いを嗅がせるのはお姉さんに任せることになった。

 お姉さんは前方の方に駆け寄り、着ぐるみの後ろを歩いていた大人しいペンギンへ、例の黄色いハンカチを差し出す。


「はいっ。ポテちゃん。このハンカチの匂い嗅いでみて~」


 ポテちゃんと呼ばれたベンギンは嘴をハンカチに近づける。そして案の定、口を開けてハンカチを食べようとしたので、お姉さんが慌てて止めに入った。


「あぁ~だめだめっ、匂いだけね~っ」


 少しハンカチを離すと、ポテちゃんはバタバタと翼を動かして走り出した。エサと思った物を取り上げられ、ご機嫌を損ねてしまったのだろうか。

 そしてポテちゃんは、軽く暴れながらすぐそこにいる大きな着ぐるみの足元に寄り付いた。


「うわぁっ、わわっ」


 着ぐるみの人も振り返り慌て始める。


「どどっ、どうしたの?」


 そして振り返った事で、すぐ近くでポテちゃんを眺めていた俺と目が合った。


 

「……あれっ、ま、松村くんっ?!」


「えっ? 宇月さん??」


 ペンギンの着ぐるみから顔を出していたのは、まさに探していた人物……宇月さんだった。


「なんで松村くんがここに?!」


「いや、それはこっちの台詞すぎるよ」

 

 ……事件だ。

 宇月さんが、ペンギンになっていた。

   

 


 お散歩の先頭に立つ宇月さんの横に並び、一緒にペンギンを引き連れながら事情を聞き取る。

 どうやら宇月さんは突然飼育員さんにスカウトされ、ペンギンの着ぐるみの中に入ることになったらしい。……いや、意味分かんないけど。

 

「そんなことある?」


「私もよく分かんなくて。気付いたらこれ着てたんだよ」


「……そんなことある?」


「それがあったんだよ」

 

 そう言って宇月さんは、動きずらそうな着ぐるみでヨチヨチと歩く。

 

「ふ~ん? でもいいじゃん、似合ってるよ」


「ちょ、ちょっと。は、恥ずかしいからあんまり見ないでっ」


 彼女は大きな黒い翼で自分の顔を隠した。

 

「いやいや、そんなに恥ずかしがらなくても。今の宇月さん、表面積の9割はペンギンだから大丈夫だよ」


「その残りの1割が恥ずかしいのっ!」


 


 ペンギンのお散歩は約30分。

 先頭の宇月さんは後ろのペンギンたちを気遣いながら、最後まで任務を全うした。

 途中で群れをはみ出している子がいれば、「マモルくん、そっちいっちゃだめだよ!」と注意し、立ち尽くす子がいれば「ルルちゃん、こっちこっち!」と呼び掛けていて。それはもう、完全に群れのリーダーのようだった。……なぜこんな一瞬でペンギンを見分けられているかは謎だが。


 

 お散歩が終わり控え室に戻ると、拡声器を持っていたお姉さんが宇月さんの元へ駆け寄ってきた。


「ほんと~~に、ありがとうごさいました! お姉さんが手伝ってくれたので、何とかお散歩を終えられました!」


「いえいえ、そんな。私はただ前で歩いてただけですから」


 この女性の飼育員さんから依頼され、ペンギンの着ぐるみを着ることになったのだろう。全力でお礼を言う飼育員さんに、着ぐるみのままの宇月さんはつつましい態度で接する。


「ハンカチのお兄さんも、すみませんっ。きっと私が無理言ってお姉さんを連れ去ってしまったので、探してたんですよね??」


「いや、いいんですよ、おかげで面白い姿を見られたので」


 俺が宇月さんへ視線を向けると、彼女はまた翼で顔を隠した。

  

「うふふ。とっても可愛いですよねっ!」 


 それを見た飼育員さんが微笑んで褒めると、宇月さんは恥ずかしがって後ろを向いてしまった。


  

 宇月さんが着ぐるみを脱いでいる間、俺は事の経緯について飼育員さんに質問した。

 話によると、着ぐるみを着る予定だった女性が体調不良で出られなくなってしまい、急遽その辺にいた宇月さんに声をかけたらしい。小規模の水族館なので、代わりに入れる女性がいなくて……とのことだった。

 ちなみに、着ぐるみが女性じゃないと入らないというのもあるが、"可愛い子だったから"、という点が宇月さを選んだ決め手だったそうだ。……まさかの顔採用だった。

  


 着ぐるみを片付け、飼育員さんと別れて控え室を後にした。

 少し館内を見たら帰ろうということで、俺たちはエリアの方へ向かって歩く。


「宇月さん、大活躍だったね。ていうか不思議に思ってたんだけど、なんでペンギンの名前把握してたの?」


「え、ホームページに書いてあったからだよ? みんなの顔写真、載ってたでしょ?」


 彼女は何が不思議なの?と言いたげな顔でこちらを見つめる。

 たしかにホームページにはペンギンの写真が載っていたけど。20羽近くいたし。というか全員初対面だし。

 

「いや、普通それで判別できないでしょ」


「人の名前も覚えられない松村くんには無理かもね~、ふふっ」


 宇月さんは口に手を当て、からかうように笑う。

 さっきの癖が抜けていないのか、まだ少しヨチヨチ歩きなのは黙っておこう。


  

「最近は結構頑張って覚えてるんだけどなぁ」


「えー?じゃあ私の名前、分かる?」


「宇月・ファーストペンギン・明澄」


「……変なミドルネーム付けないでよ」


 彼女は小さな歩幅で歩きながら、口を尖らせた。

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