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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第79話 じゃあ鴨がサーロインを背負ってくるって感じ!

 約束の土曜日になった。

 今日のプランは宇月さんに伝えてある。まずは合流して一緒にランチ。それから水族館に行って、彼女が行きたいというので、近くにある足湯に入って帰ることになっている。

 こんな暑いのに足湯?と思ったが、夏は冷たい足湯になっているらしい。

 まずは駅で待ち合わせして、一緒に電車で移動だ。



 集合場所の福井駅に着く少し前、宇月さんに「もうすぐ着くよ」とメッセージを送ると、「黄色いハンカチ持って待ってるね」と返事がきた。


 早く出発したつもりが集合時間ぴったりぐらいに着き、駅の入口から中に入る。するとすぐそこに黄色いハンカチを持った少女がいた。


「あっ、宇月さん。ごめん待たせて」


「ううん、全然待ってないよっ」


 彼女はニコッと笑って返事をした。

 "待ってるね"ってメッセージ来てたんだから、宇月さんが早く着いてたのは知っているのに。


「そ、そっか。ありがと。……でも宇月さん、その黄色いハンカチは……?」


「これ?待ち合わせだから、私だって分かった方がいいかなって」


「ここでそんな都会の人混みみたいな想定してたの? あと俺たち初対面でもないんだから」


「"待ち合わせの仕方"で検索したら出てきたんだよ~」


 それ、マッチングアプリとかの待ち合わせじゃないの……?知らないけど。



 

 電車のホームに行き、自分達が乗車する電車の到着を待った。

 宇月さんの涼しげなワンピースが、通りすぎていく車両の風圧によってフワッとなびく。

 そういえば俺は彼女の私服を今日初めて見た。……にも関わらずそれについての感想は何も伝えていない。私服を褒めるのは松村家の家訓なのに。


 出会い頭にハンカチの話をしたせいでタイミングを失ってしまったと後悔していると、反対ホームの電車を見ていた宇月さんが口を開いた。


「今日ね、何着てくるかすっごく迷っちゃった」


「そ、そうなんだ」


 彼女は照れ臭そうに腕を後ろに組んでこちらを向く。

 

「うん。……変じゃないかな?」


「もちろん。似合ってるよ」


「えー、ほんとかなぁ? 松村くん、何でも似合ってるって言っちゃいそうだし」


「それは否定できないかも……。でもきっと宇月さんだったらなんだって似合うよ」


「……もー、適当言ってるでしょっ」


 自分なりに褒めたつもりだったが、普段言わないせいで冗談だと思われてしまった。しかし訂正するのも恥ずかしく、宇月さんの小突きに愛想笑いで返す。


 

 そこから少しの間は電車で移動。今日水族館で見たい生き物の話をしていたら、あっという間に目的の駅に着いた。

 とりあえずこの駅はランチを食べる店の最寄りなので、一緒に下車して宇月さんを店までエスコートする。


「今日暑いね。……ごめん、もっと近くの店にすれば良かった」

 

「いやいや、いいんだよ。暑くて汗かいて、私痩せられるもん」


「それならまぁいっか。ていうか前から思ってたけど宇月さん、どこに痩せる肉があるの?」


「そ、それは……松村くんにはまだ早いからっ!」


 そうやって恥ずかしそうな反応されると、逆に気になってしまいますが……。


 


 そして少し歩いて目的の店に到着。

 宇月さんは俺の後ろに付いてキョロキョロしながら入店した。


 席に着くと彼女も落ち着いてきたようなので、一緒にメニューを眺める。

 

「ここっ、なんかいい雰囲気のお店だねっ」

 

「そうだね。俺には少し背伸びしてる感あったかも」


「そうでもないよ? 松村くん、高校生に見えないもん」


「そう? それはどういう意味か気になるところだけど」


「えっとね、盆栽とか、俳句とか、そういうの似合う感じだよ。……いい意味で!」


「老けてるだけじゃん」


「な、中身だけねっ」


「外見もだったら困るよ」

 

 店内を見渡すと、ほとんどが若いカップルのお客さんだ。デートではないけれど、「男女 おすすめの店」で調べて出てきた場所だということはここだけの秘密。

 

 メニューはイタリアンがメインだったので、俺たちはそれぞれ気になったパスタを注文した。しばらくして2皿が席に届き、フォークでクルクルと巻いて口に運んでいると、宇月さんがこちらを覗いてくる。

 

「松村くんのそれ、結構辛そうだよね。辛いの得意になったの?」


「いや、これはそうでもないよ。辛そうで辛くない、少し辛いパスタってところ」


「……なにそれ。ラー油みたい」


「宇月さんの激辛おにぎりを乗り越えた俺には、大した壁ではないんだよ」


「あ、遠足のときのやつだよね。あれ楽しかったよね~。次は凛ちゃんと3人でやる? 激辛バトル2nd 」


「2ndは1stが好評で、みんなが待ち望んだ場合にやるやつだから……」


「えぇ~? 1stもさ、涙なしでは食べられない、熱い闘いだったと思うんだけどなぁ~」


「それはただハチャメチャに辛かっただけだよ」


「ふふっ」


 

 宇月さんは器用にフォークの上にパスタを乗せて口に運ぶ。彼女の皿に盛られていたのは、円筒状のショートパスタ。所謂"ペンネ"というやつだ。"見た目が可愛いから"という理由でそれにしたらしい。


 ペンネを食べながら宇月さんが話す。


「そういえばさ、お盆休みにかおりんのおばあちゃんの民宿行くでしょ? その事詳しく聞いてみたらね、なんと私がずっと行きたかった島だったの!」


「へぇ~、そうなんだ? ずっと行きたかったってことは、結構人気な観光スポットなの?」


「ううん、そういうわけではないんだけど。昔一度行ったことがあってね。もう一度行きたいってずっとずっと思ってたんだ~。だから今回は本当に棚からぼた餅……いや、棚からサーロインなんだよ」


「……棚からサーロインなんて、もはや幸運というより不気味だよ」

 

 頬に手を当てて嬉しそうにする宇月さんの表情がなぜだか気になってしまったので、パスタを巻きながら質問してみた。

 

「でもそこまで言うなんて、そんなに行きたい理由でもあるの?」


「うん。……実はそこに、探し物があるんだよ」


「探し物?」


「そっ。そこで失くしちゃった物、見つけたいの」


   

 その言葉を聞いて思い出した。頭の片隅にずっと残っていた記憶。

 初めて宇月さんと出会ったあの日。今後の目標を書くという先生からの課題に、彼女は「失くし物を見つける」と書いていたような……。

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