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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第72話 運命の2択は

 天羽さんが戻ってきたのは約20分後。

 大した時間でもないが、誰かと2人きりで話しているにしてはそこそこ長い時間だと思う。


 クラスメイトたちは続々と登校してきていたが、皆真っ先に掲示板に向かったため、今のところ教室にいる人数はごく僅かだ。


 戻ってきた天羽さんは、スッキリした表情で俺に告げる。


「ちゃんと気持ち、伝えてきたよ」


「うん、よかった」


「勝負にも負けたし、もう終わりにするって」


「そっか」


 俺はその言葉を聞いて、何故だか胸の辺りがチクリと痛むのを感じた。

 勝負には勝ったのに……。この痛みの原因が、その時は自分でもよく分からなかった。

 

「これでボディガードは本当におしまいだね。今までありがとっ」


「うん。こちらこそ、ありがとう」


 今からはこれまで通りの友達に戻るんだ。

 ……まぁ、ずっと友達だったんだけど。

 

 

「あっ、そうだ、蒼汰くん。赤山君から伝言があるんだ」


「え、俺に?」


「うん。放課後、体育館の裏に来てほしいって」


「えぇ……。それ、告白されるかリンチされるかの2択じゃん」


「さ、さすがにリンチしそうな顔ではなかったよ」


「じゃあ告白か」

 

 フフフと笑う天羽さんは、心配事が無くなったからか、俺の目でも分かるぐらい肩の力が抜けて清々しい顔をしていた。



 

 約束の放課後になると、俺はとりあえず部活を放ったらかしにして体育館裏へ向かった。

 宇月さんには何も伝えていなかったが、テルマ君の話はすぐ終わるだろうしきっと大丈夫だ。……告白されたら、即ごめんなさいしてずらかろう。


 そんな考えの中指定の場所に着くと、既にテルマ君は腕を組んで俺を待っていた。


「来たね、松村君」


「うん、来たよ」


「まずはおめでとう。僕の完敗だよ。頑張って勉強したんだけどな……」


「こっちも頑張ったからね。良い勝負ができてよかったよ。ありがとう」


 俺がお礼を言うと、テルマ君は眉をひそめて呆れたように笑った。


「ハハッ。……君は本当に友梨乃ちゃんが言っていた通りの人だね」


「何が?」


 意味深な台詞を言ったテルマ君は、そこから少し間を空けた。真剣な顔つきになる彼を見て、俺も慌てて心の準備を済ませる。


 

「……松村君、僕は君の事……」


「ごめんなさい」


「なっ……なにが?!」


「え、告白されるのかと思って」


「そんなわけないだろ! 君は僕の事を告白魔か何かと勘違いしてるのか」


 ……それはそう思ってました。


「あ、違うんだ?告白じゃないならよかった。俺、今のところ恋愛対象は女の子だからさ」

 

「そんなこと聞いてないけど、一応分かった。あと"今のところ"とかつけなくていい」

 

「まぁ勘違いで良かったよ。じゃあ、テルマ君、またね」


「ちょ、ちょっと待った! まだ何も話してないじゃないか!」


「フッた後って、気まずくなるかなと思って」


「いやだから告白してないわ!」


 

 切り上げて帰ろうとしたが、結局テルマ君に引き止められ。2人で体育館の裏口の階段に座った。


「で、さっきは何を言おうとしたの?」


「君の事、誤解してたって言いたかったんだ」


「え?」


 そこからテルマ君は真面目な顔で話し始めた。

 

「初めて会った時、友梨乃ちゃんと一緒にいたろ? 正直、僕はそれが悔しくてたまらなかった。彼女の隣にいても、緊張なんて無縁のような平気な顔をしていたから」


「そうだったんだね」


「あぁ。だから君の事、ただ僕の邪魔をしたいだけの愉快犯だと思っていたんだよ。勝負もノリで受けて、楽しんでいるだけだと思ってた」


「それは……。なかなか酷い言われようかも」


「だけど違ったんだ。君は本気で勝負に挑んできた。遊びじゃなく、真剣に。……だから僕は、君の事を見直した」 


「そっか」 


「なんとなくいつもよりやる気が出て、ライバルができたような気分になってね。真剣勝負だったけど、こっちも少しだけ楽しませてもらったよ」


「俺も、天羽さんやテルマ君のおかげで頑張れた。努力が実って、結果が出たときはすごく嬉しかったよ。ただの期末試験だけでこんな気持ちになれるんだって思えた。だから、ありがとう」


「フフッ」


 変なことは言っていないはずなのに、テルマ君は笑い出した。不思議に思って見ていると、それに気付いたのか説明を加えてくる。


「あぁ、ごめん。実は友梨乃ちゃんが言ってたんだよ。君はすぐ"ありがとう"って言う癖があるって」


「それは……思ったときに言ってるだけだけど」


「思う回数が多いんだよ。普通、この場面でありがとうなんて言わないさ。"ざまぁみろ"とか、"靴を舐めろ"とか、そんなことを言うはずだ」


 ……靴は舐めてほしくない、衛生的にも。


「じゃあ、育ちがいいってことで」


「そういう所は素直じゃないんだな、君は」


「よく言われる」

 

 真っ直ぐ前をみて話すテルマ君は、天羽さんと同じように清々しい顔をしていた。


 

「もう、天羽さんの事は諦めてくれるの?」


「そういう約束だからね。でも、この気持ちはしばらく消えないかもしれないな。それは許してほしい」


「それは、もちろん。……少し前から思ってたけど、テルマ君って結構カッコいいところあるよね」


「なっ、急に何を言い出すんだ?! ……まさか君も告白してくるのか?!」


「いや、告白魔はテルマ君一人で十分だよ」


「誰が告白魔だ!」


 テンポよくツッコミを入れてくれるのは何だか気持ちいい。テルマ君、ツッコミの才能アリだ。


「まあまあ落ち着いて。……俺がカッコいいと思ったのは、そうやって何事にも全力で立ち向かえるところだよ。この前部活の様子を覗いてそう思ったんだ」


「見られていたのか」


「うん。それで、何度も天羽さんに告白しているのだって、自分の気持ちに正直で、人より行動に移しているだけなんじゃないかなって」


「そんなに良いように捉えてくれなくていい。僕も分かっていたんだ、友梨乃ちゃんに迷惑がかかっているって事は……。でも今回の勝負で気持ちの整理ができた。諦めるいいキッカケができたとさえ思ってる」


「そっか」


 また胸がチクリと痛む。

 

 テルマ君はこちらを見ると、怪訝な顔で話を続けた。


「君はなぜそんな顔をしているんだ? 勝負に勝って思い通りになったんだから、もっと誇らしく嬉しそうな顔をするもんじゃなのか」


「なんでだろ。自分でもよく分からない」


「……もしかして、申し訳ないとか思ってるのか?」


「それは……」

 

 的を射られたようで、何も言い返せなかった。

 

「やっぱりそうなんだな。……君は、きっと僕が友梨乃ちゃんを諦める結果になった事を喜べずにいるんだ。そういう勝負だったっていうのに」


「……そうなのかも」


「でも、そう思うのにも理由があるはずだ。……君は、友梨乃ちゃんの事をどう思っている?」


 俺の天羽さんへの気持ち……。

 真っ直ぐ問いかけてくるテルマ君に対し、俺は真摯に向き合わなければならないと小さく決意した。

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