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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第71話 30°のハイタッチ

 期末テスト終了後の週末。

 凛の病院の付き添いや慣れない家事の連続により、落ち着く暇もなく休日は過ぎていった。


 凛はあれから気持ちにも整理がついたようで、試合前のいつもの調子に戻ってきている。

 身体が不便な事もあり、宿題をするのすら大変そうであったが、次は高校受験が控えているからと張りきって机に向かっていた。

 しっかり気持ちを切り替えて次の目標に向けて努力するその姿勢は、妹ながら尊敬に値するものだし、俺も見習わなくてはいけない。



 

 そして週明けから学校が始まり、数日してついに期末試験の結果発表日が訪れた。


 順位は廊下の掲示板に朝から貼り出される。

 俺は天羽さんと早い時間に教室で待ち合わせしていたため、当日の早朝、彼女が登校してくるのを自席で待った。

 前回のデート(仮)の待ち合わせで天羽さんを待たせてしまったのを思い出し、今回はより早めに集合場所に到着しているのだ。


 

「蒼汰くん、おはよ~」


 しばらくすると、誰もいない教室に天羽さんが入ってきた。

 

「おはよ」


「ごめん、待たせちゃった?」


「いや、今来たとこだよ」


「ほんとに?」


「……本当はその台詞が言いたくて早く来ました」


「あはは、それ言っちゃったら意味ないのに?」

 


 内心は結果が気になって仕方ない。こうして天羽さんを待っている間も落ち着かなくて、一人で見に行った方が恥ずかしい結果を共有しなくて済むかも、なんて考えてしまっていたし。


「じゃあ早速見に行こうか」


「うん」


 2人で廊下に出て、掲示板の方に向かう。

 天羽さんは歩きながら両手で自分の胸を抑えた。

 

「あ~、緊張してきたかも」


「俺は天羽さんの1.5倍緊張してるかも」


「なんかリアルな数字だね」


「まあ、まず掲示板に載ってない可能性すらあるからね。もしそうなったら一緒に笑ってくれる?」


「分かったよ、一緒に笑ってあげる」


「それで、一緒にテルマ君に豆でもぶつけに行こう」


「ええ?節分みたいに?」


「うん。テストで倒せなかったから豆で倒そうと思って」


「ふふっ、最終的にはやっぱり勝ってくれるんだね」


「もちろん」



 まだ早いためか、掲示板の周りには生徒は一人もいない。

 掲示板の前に立つ頃には、俺も緊張のあまり鼓動が激しくなってきていた。隣にいる天羽さんがまじまじとこちらを見つめていたことに全く気付かないぐらいに。


「いよいよだねっ」


「うん」


 2人で一度視線を合わせ、下の方から順位を見ていく。順位は100位からだ。

 流すように90位、80位と見ていくと、ずっと知らない名前が続く。


 そして70位、60位と過ぎた辺りで段々と心配になってきた。まだ自分の名前がない。

 やっぱり100位より悪くて、そもそも掲示板に載っていないのか……?


 続けて上を見ていくと、50位に到達してすぐのところで、自然と目が止まった。


「あっ、天羽さん。あったね」


「46位だ! 私にしては上出来かも!」


 46位なんて十分に上の順位だ。

 天羽さんのリアクションからも、彼女自身が予想していたよりも良い成績だったことが伺える。放課後も休日も一緒に勉強していたし、きっとその成果が出ているのだろう。こちらとしても喜ばしいことだ。


 視線を掲示板に戻し、再び上に向かって名前の確認を進めた。


 40位……30位……まだ自分の名前はない。


 そしてもう少し上に上がったところで、また見知った名前が目に飛び込んできた。


 21位 宇月明澄

 

 宇月さん、本当に賢いんだな。

 そう思っていた矢先、そのひとつ上にまた知っている名前が出てきた。


 20位 赤山輝馬

  

 2人ともすごい。聞いていた通りの好成績に、正直俺は驚いている。

 そこで驚いたのも束の間、すぐ上によく知っている名前が確認できた。今まで誰よりも書いてきて、誰よりも見てきた名前が……。

 


 19位 松村蒼汰



 …………あった。

 

 隣を見ると、天羽さんは今にも爆発しそうな口をギュッと結んで、こちらを向いていた。

 感情が飛び出しそうな俺も、「よしっ!」とか「勝った!」という言葉より先に、気付けば彼女の名前を呼んでいた。


「天羽さん……!」


「うん、うん……! やった……!! 蒼汰くん、勝ったんだよ……!!」



 こんなに嬉しかったのはいつぶりだろう。

 たかが勉強、たかが期末テスト。しかし、努力した上で得られた結果だ。込み上げてきたこの気持ちは、自分の中だけで抑え込んでいられなかった。

 自然と握りこぶしを握っていた俺に向かって、天羽さんが両方の手のひらを見せる。


「えへへっ!」


 向けられた両手にハイタッチすると、天羽さんはこれまでで一番の笑顔を見せてくれた。

 それはきっと、もうテルマ君に告白されないという安心感からきたものではない。ただ純粋に、俺の努力が実ったことを祝福している。そんな感じだった。




 2人で教室へ戻る途中、天羽さんは意外なことを口にした。


「今だから言うけどね、私、勝負の結果はどっちでもいいって思ってたんだよ」


「え、そうなの?」


「うん。私も勇気をもらえたから。勝負がどうなっても赤山君にちゃんと向き合って、ちゃんと返事をしようって思ってた。……それに、今回自分の気持ちとも向き合えたよ。全部蒼汰くんのおかげ」


「そっか。それなら良かったよ。天羽さんのためになれたなら、それより嬉しいことなんてない」


「へへ。ありがとっ」


 

 自分達の教室の前に着くと、天羽さんは「今から赤山君と話してくるね」と言って立ち止まった。

 向き合う勇気が持てたと言っていたから、告白の件を話すのだろう。

 

 一人で大丈夫かと聞こうとしたが、彼女の表情を見て、それが必要ないことはすぐに分かった。


「行ってらっしゃい」

 

 きっと、テルマ君にとっても大事な場になる。天羽さんを見送ると、俺は一人教室に残り、彼女の帰りを待つことにした。

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