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ヒロインが勝負をしかけてきた!~何でも勝負にしたがる隣の席の美少女が、俺にだけやや距離が近い件~  作者: ポット


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第6話 天使の靴下はクマさんの刺繍入り

 昨日と同じルートで購買へ行くと、すでに人だかりができていた。会計に順番は無く、商品とお金を購買のおじさんに渡せた者が勝ちという感じだ。小さな戦場と化しているこのフィールドに突っ込んでいくのは少々気合いがいる。


 戦場の後ろで呼吸を整えていると、隣に小柄な少女がいることに気付いた。人と人の間に手を入れて頑張って入ろうとしているが、その小さな体で隙間を作る事が難しいのか、とても苦戦している様子だ。


「あの、大丈夫ですか?」


「えっ、あっ…!」

 

 彼女は声をかけられて少し驚いていたが、俺の顔を見て面識のある人間だと理解してくれたようだ。


「コーヒー牛乳ですよね?いけるか分からないですけど、買ってきましょうか?」 


「え、ほんとにいいの?私さっきから他の人の勢いに負けちゃって、購買のじーさんにも気づいてもらえなくて……。代わりに行ってくれるなら助かるよ!」


 俺は1000円札を握りしめ、意を決して戦場に突入した。人をかき分け前の方に進むと、手を伸ばしてギリギリのところでコーヒー牛乳らしき紙パックの商品を手に取ることができた。


「おじさん……!お願い…します……!」


 人混みで前が見えていないため、最早自分がおじさんに手渡した数点の商品が本当にコーヒー牛乳なのかも分からない。おじさんが袋に入った商品とお釣りを渡してくれたのが手の感覚で分かり、人混みをかき分けてやっと戦場から離れた。

 先程の小柄な少女の所へ戻り、自分が手に持っていた袋の中身を確認する。

 よかった、コーヒー牛乳だ。2つしかないが。


「どうだった?」


「なんとか買えましたよ。はい、どうぞ、これ」


「わぁ、ありがとう!午前の授業、頑張った甲斐があったよ!へへっ」


 ここまで喜んでもらえると、自分の分が無いことなんてどうでもよくなってしまうな。

 少女はお金と交換にコーヒー牛乳を受け取ると、嬉しそうな顔で俺に手を振って去っていった。  


 じゃんけんには負けたけど、健気な少女に親切をしたからいい気分だ。さて、宇月さんにこれを届けてあげるとするか。




 教室に戻ると、宇月さんは先に弁当を食べ始めていた。今日は弁当箱の中に綺麗に詰め込まれた食材を、ちゃんと箸で食べているではないか。


「宇月さん、今日はキュウリじゃないんだね」


「おお、松村くんおかえり〜。これねぇ、お母さんが今日はお弁当持って行きなさいってうるさくて。私はキュウリでいいって言ったんだけどね」


 宇月さんのお母さん、大変な思いをされてるようで。

 

「そっか。キュウリランチが宇月さん1人の習慣だと分かって安心したよ」


「家で女子高生は私だけだからねぇ。……ところで松村くん、その手に持っている袋は?もしや今日もコーヒー牛乳、勝ち取れたんだね?」 


「そうそう、これのおかげで購買はすごい人だったよ。今日も収穫は1つだけだから。心して飲むがいい」


 俺は袋から出したコーヒー牛乳を手渡した。


「一体松村くんがこれを飲めるのはいつになることやら……」


「水瓶座が1位の日かな」


「あ、じゃあ今から明日の分のジャンケンしちゃおうよ」


「…………しないよ?」




  

 その日の放課後。俺と宇月さんは日直の仕事を終えると、約束通り2人で書道部の部活見学に向かった。


「たしか南校舎の3階って言ってたから〜…こっちだね」


 宇月さんの案内で書道部の部室を目指す。


「あっ、明澄〜!本当に来てくれたんだね!」


 それらしき教室の中から、廊下に顔を出して手を振っている少女がいる。遠くてよく見えないがどこかで見たことがあるような顔だ。


「友梨乃〜!あったりまえじゃん!」


 宇月さんが返事をしながら少女の元へ駆け寄る。俺は後ろから歩いて近づいていくと、会話できるくらい近くに来たところでようやく少女の正体がわかった。

 ……そう、彼女は昼休みの購買で2度も出会った、コーヒー牛乳の少女だった。


「あ、購買の……」


「えへへっ、その節はありがとうございました」


 少女はペコリとこちらに頭を下げる。


「いえ、それは全然。というか、宇月さんと友達だったんですね。てことは1年生だったのか」


「……えっと?松村くん?それはどうかなぁ」


 なぜか眉をひそめた宇月さんが、腕を組みながらこちらを睨んでいる。幼い見た目と宇月さんへの接し方で勝手に1年生だと思い込んでしまったが、もしかしてこの少女は年上だったのだろうか。謝らなければ。


「あっ、すみません。勝手に1年生だと思ってしまって」


「……いやそうじゃなくてね。この子……友梨乃は、私達と同じクラスなんだけど?」


 ……そういう事だったか。俺はまだクラスの生徒の顔と名前を把握できていない。何度か顔を合わせているのに、この子にはとても失礼なことを言ってしまった。


「すみませんでした」


 綺麗に90度まで腰を折って床を見ていると、優しい天使の声が聞こえてきた。


「い、いいんだよ、そんな事気にしなくて!まだ学校が始まったばかりだし、気が付かなくても仕方ないよ!顔あげて!」


 やはりこの子はとても良い子だ。天使の許しを得た俺はゆっくりと顔をあげた。

  

「松村くん、この美少女に目をつけていないとはね。もしかして友梨乃がちっこすぎて気付かなかったのかなぁ?」


「ちっこい言うな!」


 至って真面目な顔をして発言している宇月さんに、小さい彼女が鋭いツッコミを入れる。


「松村蒼汰くん…で合ってるよね?自己紹介が遅れちゃったけど、私、天羽友梨乃(あまはゆりの)って言います。改めてよろしくね」 


 ……名前まで天使だったか。 

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