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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第65話 成長ホルモンは大人だって分泌される

「それより凛、今日の試合勝ったんだって? おめでとう」


「ありがと。とりあえず安心したよ~」


 口ではそう言っているが、入念にストレッチしているのを見ていると、まだ緊張は解けていないのだと感じる。


 "明日も頑張れ"

 そう声を掛けようと思ったが、普段から頑張っている妹に、これ以上頑張らせるようなことを言うのはやめた。


 

「応援してるから」


 それだけ言って頭をポンと触ると、凛は手を置かれた状態でこちらを見上げる。


「お兄こそ、明日テスト最終日なんでしょ? 赤点取らないように頑張ってね~」


「赤点? 今の俺はそんな次元じゃないんだよ」


「じゃあ1位なの?」


「極端だな……。まぁ……神様次第では?ありえたりして?」

  

「うーん。お兄から神様の匂いはしないから、ないと思う」


「……神様の匂いってなに」


  


 凛と話してから自分の部屋に戻る。そして、いつものようにとりあえず机に向かう。

 また勉強しようかなと思っていると、天羽さんからメッセージが届いた。

 もう電話していい?との事だったので、OKとスタンプを返す。すると、すぐにスマホがブーブーと震えだした。グループ通話の着信だ。


 

『もしもし?』

 

『あっ、きたきた。蒼汰くん、今の時間で大丈夫だった?』


『大丈夫。ちょうど今お風呂から上がって自分の部屋に入ったところだったから。タイミングはバッチリ』


『それならよかったよ~』


『お、お風呂??』


 突然入り込んできたのは宇月さんの声だ。

 

『なに宇月さん。そんなに驚いて』


『ちゃんと服着てる?』


『え?……服?』


『……え、ええ、ちゃんと着てよ!勉強に集中できないじゃん!……友梨乃が!』


『ええ?私?』


『着てないとは言ってないんだけど』


『そ、そか、よかった。……もう、変な想像させないでよ』


『……いや、変な想像しないでよ』


 2人と話すのは久しぶりでもなんでもないが、こうして家から電話となると不思議な気分。宇月さんも夜でテンションがおかしくなっているのかもしれない。


『で、勉強はどんな感じなの?』

  

『さっきまでね、明澄と一緒に数学の問題解いてたんだ』

 

『おぉ、やってるね』

  

 思い出した。そう言えば、宇月さんに数学教えてほしいって言われてたような……。

 熱でそれどころではなかったが、連絡先を交換してから今まで、宇月さんの方からメッセージが来ることは一度もなかった。

 やっぱり勉強は、仲の良い天羽さんに聞くことにしてたんだな。


『ごめん、宇月さん。数学教えるって約束してたのに』


『い、いいんだよっ。私が連絡しなかったんだから。……それより、もう具合はいいの?』


 宇月さんにまで心配されていたのか。

 きっと天羽さんが伝えていたんだろう。色々と気を遣わせてしまった。


『うん、大丈夫。もう元気だよ』


『よかった。病み上がりなんだから、服はちゃんと着てね』


『いや着てるって』


『ふふ』



 3人で勉強となるとあまり捗らないのではと考えていたが、やってみるとそうでもない。

 顔は合わせていないのに皆で集まって勉強しているようで、これはこう覚えるといいよね、私もう次の問題いったよ、ここってテストでるかな?など、楽しみながら進めることができた。


 そして夜中の0時頃、やっと数学の範囲が終わった。

 疲れがでてきた俺たちは、各々ベッドに寝転びながら生物の問題を出し合っている。


 

『ミジンコってさ、結構可愛い顔してるよね』


『えぇ……? 俺はそんないやらしい目で見たことなかったな……』


『ねぇ……その言い方だと、まるで私が下心あるみたいじゃん』


『違うの?』


『違うに決まってるでしょ』


 もう夜遅い時間だが、声から察するに宇月さんはまだ元気なようだ。一方で天羽さんは生物の勉強を始めてからは段々と話す頻度が減ってきている。

 

『あっ、ていうか知ってた? ミジンコってさ、どの写真も大体横顔じゃん?』


『え、まだミジンコの話?』


『横顔ばっかりだからあんまり気付かないと思うんだけど、実は目は1つしかないんだよ』


『え……。期待してなかった分、結構衝撃の事実なんだけど』

 

『でしょでしょ? 友梨乃もタメになったよね?』


『……え?……うん……。てすとでるかなぁ?』


 天羽さんはかなり眠気がきているのか、いつもよりまったりした口調で答えた。


『でるでるっ』


『……そっかぁ……わかったよぉ~…………』


 絶対出ないでしょ。

 

 ……宇月さん、天羽さんが睡魔で正常に判断できていないのを良いことに、適当なことを吹き込んでいる。

 そして彼女は、天羽さんが寝そうになっているのを気遣ってか、小さな声で囁くように続けた。

 

『それじゃあ次の問題ね。核という構造を持つ細胞は? ……はい、松村くん、どうぞっ』


『俺、手は挙げてないんだけど……。……真核細胞かな』

 

『お~正解。松村くん、もうテスト範囲はほぼ完璧なんじゃない?』


『おかげさまでね』


『じゃあ次は難しい問題ね』

 

『よしきた』


『友梨乃の身長はいくつでしょう?』


『なんだ、簡単だね。149でしょ?』


『……えぇ、少しも悩まないじゃん!』


『まぁね。テスト出るからね』


 天羽さんの身長については最近聞いたばかりだった。一緒にカフェで勉強した日、少し厚底な靴を履いていたため、何気なく身長は何センチなのか聞いた覚えがある。


『さすがだね』


『さすが……ではないけど。それぐらいは』


 もう俺はベッドに寝転がりながら目を瞑っている。

 さっきまで持っていた生物の問題集は、今は顔のすぐ横。眠くなってきて閉じてしまっていた。


『じゃあ、次の問題ね』


『うん』


『友梨乃のスリーサイズはそれぞれ何でしょう?』


『なっ……そんなの分かるわけないじゃん……』


『ふふっ、それは知らなかったか~』


『じゃあ宇月さんは知ってるんだ?』


『いや、知らないけど』


 ……知らないんかい。

 

 俺たちがこんな話をしていても天羽さんは割って入ってこない。さっきから一言も喋っていないし、もう寝落ちしてしまったようだ。


 宇月さんも天羽さんを起こさないようにしているのか、さっきより更に小声になっている。


『じゃあ、次ね』


『はいはい』


『友梨乃の好きな人は誰でしょうか?』


 

 ……本人が寝ているとはいえ、ここで話していい内容なのだろうか。

 気になる人ならいそうな雰囲気だったが、俺はそれ以上なにも知らない。その事について伝えるわけにもいかないので、答えずに考え込んだ。


「…………」

 

『問題の出し方がちょっと違ってたね。……友梨乃、好きな人とかいるのかな……?』


『それは俺に訊かれてもね……』


『……そ、そうだよねっ、やっぱり自分で考えるよ』

  

 そんなこと自分で考えて分かるのだろうか……?

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