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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第64話 クッキーで大きくなるのは横だけだよ

「でも、でもね、嬉しかったの。辛そうで申し訳ないって思うのと同じぐらい、それだけ頑張ってくれてるのが嬉しくて。……だから、ごめん。気付いてたのに、なにもしてあげられなくて……」


 意外だった。

 天羽さんはきっと謝るだけだと思っていたから。嬉しいなんて、どこからきた気持ちなんだか。


「ははっ、天羽さん、結局謝るんだね」


「……だ、だって、やっぱりごめんって思っちゃうよ」


「何度か言ってるけど、ほんとに気にしないで。俺がそうしたくてしてるだけだから」


「うん……。でも、今からでもいいから、何かできることあったら言ってね?」


 彼女の優しさに心がジーンとした俺は、遠慮なく甘えることにした。

 

「じゃあ、勉強教えてよ。今日は大人しく休むことにするから。また明日の放課後にでも」


「そんなことでいいなら、もちろん付き合わせてよっ」


 優しく微笑む彼女を見て、残り2日のエネルギーが沸き上がってくる。大人しく休むと言ったが、テスト終盤の追い込みをかけられそうだ。

 

 そこから天羽さんは学校に残ると言ったので、俺は昨日より軽くなった足取りで家に帰った。

 天羽さんからは「無理しないで休んでね。また明日!」と連絡が来ていたが、元気が出てきていた俺は今日もできるだけ机に向かう。

 

 適度な休憩と勉強を繰り返し、体調が回復していくのに比例してテストへの闘志は膨れ上がっていった。


  

 そして木曜日。昨日はしっかり休めたため、体調はほとんど通常通りだ。

 

 無事にテストを受け終わると、午後は約束通り天羽さんと一緒に部室で勉強をした。

 あと1日となった解放感からか、勉強の合間はいつもより会話が広がる。


「テスト、いよいよ明日が最終日だね」


「そうだね。今日はどれだけ遅くまで勉強してもいいってことだね」

 

「そ、そうだねっ。私も蒼汰くんを見習って頑張るよ」


 天羽さんは両手を胸の前でグッと握りしめたかと思うと、すぐに椅子の背もたれに寄りかかって緩んだ顔になった。


「でも、今は休憩~」


「あはは」


 俺も両腕を上げて伸びていると、ブブッとスマホのバイブが鳴った。誰かからメッセージがきたらしい。


 メッセージを読む俺の顔をみて、天羽さんが質問してくる。


「蒼汰君、嬉しそうだけど、何かいいことあった?」


「あ、あぁ。今日妹が大会なんだけど、勝ち進んだって母さんから連絡きて」


「おぉっ、そうなんだ!おめでとっ!」


「ありがと。これで明日も試合になったから、ひとまず安心」


「最後の大会なんだっけ?」


「うん」


 初日を乗りきれたようで本当に良かった。この調子で明日も勝ち進んでくれるといいな。 

  

「あ、そういやさ。妹への差し入れ、あれ喜んでくれたよ。でも、もったいないからまだ食べられないって言っててさ。あんなの市販でいつでも買えるやつなのに」


「おぉ、ちゃんとあげたんだね?メッセージもつけた?」

 

「がんばれ!って、それだけ」


「……ふふっ。じゃあきっとそれが嬉しかったんだよ」


「そうかな。あげた方は恥ずかしいんだけど」


「あはは、それも分かるな~。たった一言添えるだけなのに、何書こうってすんごい悩んじゃうもん。それで、自分で書いたのを見て恥ずかしくなっちゃう」


「それは分かる」


「だよね?」

  

 天羽さんはニッコリと共感してくれたかと思うと、「あっ」と声を上げて自分の鞄をゴソゴソと触り始めた。


「蒼汰くん、これあげるね」


 彼女が取り出して渡してきたのは、クッキー。

 何種類かまとまったものが袋詰めされている。


「放送部の人にもらったやつ、食べられてないでしょ?」


「たしかにそうだったかも。……ていうか、なんか天羽さんに貰ってばかりな気がする」


 そう言うと、天羽さんはフッとしたり顔で答えた。


「餌付けしてるの」


「そうだったのか……それはかなり効いてるかも」


「えぇ~?ほんとかなぁ? でも蒼汰くん、甘いもの何でも食べるから分かりやすくていいよね。あげる方も困らないっていうか」


「うん、いつでもなんでもウェルカムです」



 俺は遠慮なくクッキーの袋を受け取った。「今日も夜のお供にさせていただきます」と伝えて自分の鞄にしまう。

 そして、2人共なんとなく勉強を再開した。


 今日も放課後の学校は静かだ。テスト期間で部活も休み。この部室に来る人なんてそうそういない。


 部室では、クーラーから出る控えめな風の音だけが聞こえている。

 そんな中、ペンを動かしていた天羽さんが一言だけ呟いた。


「もうこうやって勉強するのも終わりなんだね……」


「そうだね。やっと勉強しなくて済むよ」


「……私は、結構楽しかったな」


 そう言われて初めて、天羽さんが言った"終わり"は、2人でいる時間を指していたのだと気付いた。


「ご、ごめんっ、俺も楽しかったよ」


「ははっ、気を遣わせちゃったかな?」


「そんなことない、俺でよければいつでも相手するよ」

 

「えへへ、ありがとねっ。……あ、じゃあさ、最後に、1つお願い聞いてほしくてさ」


「お願い?いいよ」


「いいの?まだなにも言ってないけど」


「うん、なんなりと」 


「……ふふっ。言ったからね~?」


 可愛く煽る天羽さんを見て、軽々しくOKして大丈夫だったか、ちょっと心配になる。


「今日ね、明澄と夜電話しながら勉強しようって事になってるの。だから蒼汰くんも一緒に参加してくれない?3人いれば誰かが分かると思うしっ」


 なんだそんなことだったか……。


「いいよ。俺の勉強にもなるし。……でもよかった、簡単なお願いで」


「えぇ?なんだと思ったの?」


「"代わりにテルマ君と付き合ってあげて"、とか言われたらどうしようって、少し思ってた」


「あははっ、それはないよ。私も嫌だもん」


「そっか、よかった」


 

 そこから夕方まで2人でのんびり勉強を続けた。

 そして帰り道は、今日も俺の家まで一緒に歩く。

 

 天羽さんは今回も自転車を押してペースを合わせてくれた。

 度々俺の体調を案じてくるので、「後ろに乗せてもらえたら良かったんだけど」と冗談を言うと、彼女は「やっぱりもっとクッキー食べて大きくならないとね……」と返してきた。 

 どうしたら大きくなれるか、という話で盛り上がりながら歩いていると、あっという間に家に到着。

 一緒に帰るのも最後かもしれないが、夜も電話することになっているし、自分の家の前であっさりお別れした。

 


 夜、ご飯やお風呂が終わった後。

 リビングでストレッチをしている凛の横を通ると、嬉しそうな顔で覗き込んできた。


「お兄、元気になったんだね」


「うん、凛のおかげで」


 あの時は本当に助かった。玄関で倒れたまま起こしてもらえなかったら、どうなっていた事やら。凛には本当に感謝だ。


「んふふ、生き返ってよかったよ~」 


「そうか、俺は一度死んだのか」

 

「うん。私が帰ってきたとき、あれは確実に逝っちゃってたよ。私のザオラルのおかげだね~」


「……あ、うん、感謝してる」


 ……そんな博打な呪文で救われていたとは。

 

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