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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第60話 最もカロリーの低い果実

 テルマ君の襲来後。

 今日は心なしかクラスメイトたちの登校が早く、次々に教室に入ってくる。着いた者から教科書やノートを開いたり、テスト範囲の問題を出しあったりして各々がテストに備えていた。


 俺も宇月さんと話し続けている場合ではないため、自分の席で大人しく問題集を開いている。

 既に何周かした問題集。問題文を最後まで見なくても答えが浮かんでしまうので、スラスラと解き進んでいく。問題を読まなくなってきたせいで、少し出題形式を変えられただけで逆に分からなくなってしまうんじゃないかとさえ思った。

 

 ここまで勉強したのは高校受験の時ぐらいだろうか。ただの期末テストなのに、テルマ君の顔が浮かぶと負けたくないという気持ちが強く出てくる。完全に勢いで勝負することになったが、こうして振り返るといつもより勉強できたし、自分のためにもなっている気がする。

 俺はいつの間にか勝負好きになっていたのだろうか?宇月さんと同じ、戦闘民族になってしまったのだろうか?


 初日のテストは3教科。これまでの勉強時間に反して、本番は短い時間だった。

 緊張感をもって挑んだが、想像していたよりずっと自分のペンは進んでいたので、全然できていないという事はないだろう。

 ただ、夏本番に差し掛かってきたからか、身体は熱く、試験中もボーッとしてしまうタイミングがあった。明日からはちゃんと集中しないと。

 

 午前中にテストを受け終わると、そのまま授業はなく下校時間に。教室でお昼を食べる生徒もいれば、すぐに帰ってしまう者もいた。俺は今日も天羽さんと一緒に弁当を食べることになっている。


 

「蒼汰くん、テストどうだった?」


「うん、結構いい感じだと思う」


「おぉ~、さすがだねっ」


 生徒相談部の部室で、持ってきた弁当箱を取り出す。

 もちろんこの日も部活は休止期間のため、俺たち以外に部室を使う人なんていない。大きめの机の上に、2人で贅沢に弁当を広げた。


「そういえばさ、今日明澄がなんか嬉しそうだったんだよね。良いことでもあったのかな?」


「んー、俺が朝話したときは普通だったよ」


「そうなんだ~、じゃあもしかしたら蒼汰くんのおかげかな?」


「え、そんなことはないと思うけど?」


 脈絡もなく、どうして急に宇月さんの話をし始めたんだろう。

 いただきますと手を合わせてからも、天羽さんは話を続ける。

 

「あと明澄、テスト期間はチョコ食べないって言ってたけどほんとに我慢できてるかなぁ?」


「あぁ、俺との勝負のハンデの件だね」


「そうそう、ハンデになってるか分からないけど」


「はは。俺たちには確認できないし、もしかしたらコッソリ食べてるかも……」

   

 俺が笑いながらそう言うと、突然、ガララと部室の扉が開いた。


「……た、食べてないもんっ」


 ほんのり顔を赤くして部室の入口から首を出したのは、話題の宇月さんだった。


「あ、宇月さん」


「食べてないもん」


「なんでここに?」


「食べてないもん」

 

「今ちょうど弁当を……」


「……食べてないもん」


 ……会話にならない。


「分かった、分かったよ。信じるよ。なんだか痩せた気がするし」


「そ、そぉかな?え、えへ……。……って、松村くん、今顔しか見てないのに言ったよね」


 彼女はプクッと膨れながら、遠慮がちに部室の中に入ってきた。 

 

「ごめんね、友梨乃。食べてるところに」


「ううん、全然。扉の隙間から覗かれてる方が怖かったから」


「えっ、あっ、それは、そのっ」


 分かりやすく動揺する宇月さん。

 このリアクション……もしかして2人で弁当を食べるところを覗かれていたのか?


「宇月さん、覗きはよくないよ」


「い、いやっ、私は部室に置いてあった勉強道具取りにきただけなのっ。なんか入るタイミング分かんなくなっちゃって」


「それでシャイニングに……」


「いや、シャイニングはなってないからっ」


 控えめだった宇月さんが、そこだけは勢いよく否定した。

 ここで気を利かせた天羽さんが声をかける。


「せっかく来たんだから一緒にご飯食べて勉強しようよ」


「え、いいの!」


「うん、だってボディーガードは多い方がいいでしょ?」


「う、うんっ」


 宇月さんはパァッと明るい顔になって、元気よく返事した。そして天羽さんに向かって綺麗にお辞儀する。

 

「出来の悪い娘ですが、どうぞもらってやって下さい」


「宇月さん、それ自分で言うやつじゃないから」



 手ぶらだった宇月さんは教室に荷物を置いてきているらしく、「お弁当持ってくる!」と言って部室を飛び出していった。そして廊下を走る足音はすぐに小さくなっていく。

 残された天羽さんと「こうやって3人で話すのも久しぶりな気がするね」「書道部の体験思い出すね」なんて話していると、体感30秒程で彼女は部室に戻ってきた。


「ふぅ~、お待たせ」


「もぅ明澄、廊下走ってたでしょ?」


「大丈夫っ、早すぎて誰にも見られてないはずだから」


 ……たぶん問題はそこじゃない。


 宇月さんは持ってきた保冷バッグを机の上にポンと置き、椅子に座ってからゴソゴソと中身を取り出した。 

 彼女が取り出したのは中身が透けたポリ袋。その色味から、なんとなく中身が予想できてしまった。そして満を持して中から出てきたのは……。


「宇月さん、それは……」

 

「キュウリっていう野菜だよ」


「……紹介ありがとう」


 やはりキュウリだった。

 彼女は"弁当を取りに行く"と言っていたのに。……ミスリードすぎる。


「旬だからね」

 

 少し渋い顔でキュウリをポリポリ食べる宇月さんを見ると思う。……この子、本当に頭がいいのだろうか?


「ねぇ、そういえば宇月さんって、中間テストは何位だったの?」


「んーとねぇ、たしか23位だったよ」

 

「え、23位??」


 訊いてビックリ、思っていた以上の好成績だ。しかもテルマ君の1つ下の順位。

 ……俺はなんて猛者達と闘っていたんだ。


 

「……俺もキュウリ食べるようにしようかな」


 ぼそっと呟くと、天羽さんが反応した。

 

「……蒼汰くん。キュウリにそんな成分入ってないから、真似しちゃだめだよ」

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